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2015年度、鍼灸学会(福島県郡山市にて) ―しびれの基礎と臨床―

2015年7月21日1:02 PM カテゴリー:しびれ,学会・勉強会

今年の全日本鍼灸学会は、福島県の郡山市にて開催されました。

会場は東日本大震災の際に避難所となった、ビックパレットでした。

今年は、弟子が2名なり、3人での参加となりました。2人とも初めての参加で、若干、緊張した様子でした。

来年度は5名で参加できればと思っています。

今回の「基礎と臨床の対話」は、「シビレ」がテーマでした。

しびれはなかなか厄介な症状です。

痛みと痺れが同時にありますと、痛みがまず改善され、しびれは残りやすいという傾向にあります。

まず、福島県立医科大学、会津医療センターの伊関 千書先生より、西洋医学的な観点からの痺れに対する解説がありました。

○会津医療センター 伊関先生

神経内科の診療においても、「シビレ」はよくある症状ですが、実は困った訴えになるようです。

また、「シビレ」という言葉は、英語圏にはなく、日本独特の言葉だそうです。

そして、患者さんの訴えるシビレの範囲は、意外に広く、さまざまな状態をシビレと表現されます。

シビレは、医学的には異常感覚となり、痛みをシビレと訴えることもあります。

異常感覚にもいろいろな表現があり、主には、以下のようなものがあると紹介されました。

1.異常感覚

感覚刺激が加わっていなくても、自発的に、ピリピリ、ジンジンといった感覚を感じるもの

何も感じないことも含む

2.感覚過敏・錯感覚

感覚刺激が加わった際に、正常と違った感覚で感じるもの

強く感じる場合は、痛みを伴う、あるいは、痛みとして感じる

3.運動麻痺

動かない、力が入らない

4.運動麻痺以外の運動障害

筋肉を緊張させる働きの異常、例えば、パーキンソン病

強張る、うまく使えない

5.感覚低下(鈍麻)

触圧覚、温痛覚、振動覚などの感覚の低下

震え、痙攣

このようにさまざまな訴えがあるのがシビレです。

このシビレの訴えから、どのような病気によるシビレなのかを判断する必要があります。

伊関先生によりますと、まず、しびれが上の分類のうちのどのシビレにあてはまるのかを見極め、次に体のどの部分がしびれているのかを調べるとありました。

この時に、患者さんの言葉を医学用語に変換し、病変部位を推理していくことが大切とありました。

次に病因を鑑別し、どの病気によるシビレなのかを診断していくようにと指導がありました。

伊関先生から、日常の臨床で遭遇しやすいしびれを訴える病気に関して、上のような手法で、診断していく解説がありました。

日常的に多いシビレのある病気としましては、糖尿病性多発神経炎、手根管症候群、変形性脊椎症があります。

この中で、糖尿病性多発神経炎は、よく起こる症状になります。

その名の通り、糖尿病が長引くことにより生じるシビレです。

そのほとんどが、手袋靴下型といわれ、手袋した感じ、靴下をはいた感じで痺れが生じます。

異常感覚も生じ、苦痛が生じやすく、血糖降下の治療中に感覚障害が悪化することもあるようです。

そして、その症状があまりにも典型的なため、そのほかの疾患によるシビレを合併していても、見過ごされることが良くあり、注意が必要とありました。

糖尿病性多発神経炎では、自律神経ニューロパチーは、ほぼ、同時に起こり、失神、発汗異常を伴うそうです。

手根管症候群は手の親指、人差し指、中指がしびれる病気です。

女性に多く、なぜか、妊娠中に起こることがよくあります。

変形性脊椎症は、腰椎椎間板ヘルニアなどが代表的な病気になります。

合併症は少ない傾向にありますが、横になった時に、腰部や下肢の異常感覚が悪化する場合は、慢性心不全を合併している可能性があるので、注意が必要とありました。

このような代表的な「シビレ」以外には、なぜ「シビレ」が生じるのかよくわからないことが多いそうです。

最後に危険なシビレについての紹介がありました。特に難しい内容ではありませんので、覚えておいていただければ、いざというときに役立つと思います。

★危険なシビレ
・急にシビレが生じた
・シビレだけでなく、頭痛、嘔吐、吐き気、めまいなどがある
・シビレがだんだんとひどくなる
・同側の手と口がシビレる
・シビレだけでなく、呂律が回らない
・同側の手と足が同時にシビレる
・シビレだけでなく、高血圧になった

次に、生理学から痺れをどうとらえ、そこに鍼灸がどうかかわっているのかの紹介がありました。

○昭和大学 医学部 石川先生

痛みと痺れの違いとして、痛みは健康人でも生じるが、痺れは通常にはない感覚で、さまざまな機能的あるいは、構造的な問題で生じるされているとありました。

シビレは確立された学術用語ではなく、感覚鈍麻、異常感覚、錯感覚という感覚異常だけでなく、筋緊張亢進、筋力低下、筋委縮、運動麻痺などの運動機能障害を含んでいる、広範囲な病態を現わしているそうです。

痺れを原因から分類すると大きくは、以下のようになるようです。

・末梢神経系の締め付けによる阻血

・中枢神経系の異常

但し、神経は身体中に張り巡らされていますので、そこから生じる症状は数えきれないほどになります。

外来でのシビレ・痛みの原因疾患の割合は

・坐骨神経痛:20.4%
・変形性頚椎症:19.8%
・手根管症候群:15.1%
・うつ病:14.1%
・不安障害:6.1%
・糖尿病性ニューロパチー:5.7%

となり、末梢で痺れが生じる疾患が全体の約80%を占めています。

痺れが生じるのは?

感覚の障害としてのシビレは、外部からの刺激を感覚として受ける受容体からの信号が末梢神経~脊髄~大脳へと伝達される間のどこかで、伝導や伝達が上手くいかないことによります。

また、末梢神経障害には、運動神経障害、感覚神経障害、自律神経障害があり、痺れと認識されるのは、運動神経と感覚神経が障害された場合で、自律神経が障害されると、手・足の皮膚が冷たい、下半身に汗をかかないなどの症状が起こるそうです。

末梢神経が障害されると、さらに厄介なことが起こることが、最近の研究で分かってきたそうです。

脊髄に存在するグリア細胞に身体に悪影響を与える遺伝子が発現したり、たんぱく質に変化が起こり、痛みを伝達する物質や神経回路に可塑的な変化が起こり、痛覚過敏や、あらゆる刺激を痛みと感じる異痛症(アロディニア)が生じるそうです。

この状態になりますと改善させることがなかなか困難になってきます。

シビレや痛みが生じる働きに関しましては、分からないこともあるものの、解明が進んでいるようです。

大きくは、末梢の組織や神経に損傷が起こると痛みやしびれが起きます。

このことは、一般に言われているような、身体の歪み、背骨、仙骨の歪みにより、痛みやしびれが生じるのではないことを示しています。

この点の理解は難しいかもしれませんが、骨格の歪みが痛みやしびれの原因でないことは、大切な点です。

まとめますと、痛みやしびれが生じる原因は、現在のところ以下のようなことが分かっています。

⑴末梢性感作

・炎症性メディエーターによる痛覚過敏

・Na⁺チャネルの増大による異所性電位の発生

・交感神経の関与による痛み信号の増強→末梢神経の感受性が拡大

 

⑵中枢性感作→脊髄での過敏化

・脊髄後角神経の神経の過敏化→ワインドアップ現象

・脊髄後角の神経発芽化→アロディニア

・脱抑制機構

・γアミノ酪酸(GABA)による興奮

・グリア細胞の活性化

・下行性疼痛促進系の活性化→2次侵害ニューロンの興奮性増大(シビレ、痛みの慢性化)

では、これらの減少に対して、鍼治療はどう関与できるのかという、お話がありました。

・基礎臨床実験

実験動物に関節炎をつくり鍼刺激を行ったところ、腫れはひかなかったが、疼痛は減少したようです。

また、中枢において、ミクログリア細胞という痛みを引き起こす細胞の減少が観察されたそうです。

このことより、末梢への鍼刺激が、中枢の感作も抑制する可能性が示唆されたことになります。

 

・ヒト臨床試験

抗がん剤の代表的なものに、パクリタキセルがあります。

この薬は効果の高いものですが、副作用としてシビレが起こります。

この副作用は、動脈の微小循環の働きを阻害して起こります。

パクリタキセルの副作用であるシビレの軽減に関する鍼治療のヒト臨床試験に関する報告がありました。

パクリタキセル投与と同時に鍼治療をした群と、パクリタキセル投与後、痺れが生じてから鍼治療をした群に分けて、行っています。

結果は、パクリタキセル投与と同時に鍼治療を行った群では、痺れの副作用が少ないとありました。

これにより、鍼治療は、パクリタキセルによる副作用のシビレを改善できることが示唆されました。

石川先生は、この理由を基礎実験で確認されています。

それによりますと。

パクリタキセル投与により、ミクログリア細胞に、P2X12という痛み過敏やしびれなどの感覚障害を引き起こす受容体が出現し、副作用として痺れが生じる。

鍼刺激により、この受容体の出現が減少する。

これにより痺れが改善するとありました。

このように、鍼治療がシビレを改善できる理由が、徐々にですが分かってきています。

最後に、「シビレ」に対する鍼灸治療の臨床試験に関する現状を分析した報告がありました。

 

○九州看護福祉大学 久保先生

「シビレ」として国内、海外での鍼灸臨床研究の論文を検索すると、国内は数多くあるが、海外は少ない傾向にあったそうです。

これは、今までの発表者でもありましたが、海外では「シビレ」単独で表現することがなく、痺れと痛みを混合して表現することが多いからです。

そこで、久保先生は、「シビレを高頻度にきたす疾患」として考え、その原疾患には末梢性障害が多いことから、そこから再検索をされました。

その結果、まず、男女、年齢などの構成は、以下の通りでした。

65歳以上、男性:7.9%、女性:8.9%と、若干、女性にシビレを訴える人が多い。

論文の構成では、国内は、やはり、1例報告を含めた症例報告が多く、無策比較試験を含めた質の高い研究が少ないのが現状とありました。

海外の論文では、無作為比較試験を含めた質の高い論文があり、鍼治療の末梢神経障害に対する効果が認められているとありました。

また、糖尿病性末梢神経障害や帯状疱疹後神経痛に関する比較試験も多く行われていることが、特徴的とありました。

先生ご自身も、過去に、パクリタキセルの副作用のシビレの軽減に関する無策比較試験をされており、疎の紹介もありました。

結果は上の石川先生のところで、紹介しています。

シビレだけでなく、国内からの無策比較試験の論文が増え、鍼灸が難病治療に有効であることを示すことができるようにしていきたいとありました。

私自身も心からそう願っております。

 

 

 

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