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不育症は鍼灸で改善できる!?

2017年5月16日6:19 PM カテゴリー:不妊症,生理不順,生理痛

 

今回は、不育症への鍼灸治療の症例をご紹介しながら、鍼灸が不育症の改善に繋がるのかを綴っていきます。

症例は、大阪市内在住の30代後半の女性です。

初回時の患者さんの感想

「流産を繰り返し心身共に疲れ果てていました。これでダメなら諦めようと思っていました。」

この患者さんが来院されたのは、妊娠初期の流産を3回、経験された直後でした。
病院での不育症検査では異常が見られず、何をして良いのかさえ分からなかったそうです。

不育症専門として有名な病院も受診されました。
処方された薬は以前、通院していた病院と同じもので、西洋医学で改善するかどうか不安が強くなっておられました。

そんな時に、友人から鍼灸治療を勧められ、当院に来られました。

<初回のご様子>

初めての鍼灸治療で緊張が隠せないご様子でしたので、時間を掛け丁寧にカウンセリングをさせて頂きました。
カウンセリングの際に特に気になったことは、顔色が優れないことでした。
度重なる流産のショックや、出口の見えない不育症治療のストレスかと思いましたが、お話をおうかがいしますと、それ以外にも、原因になりそうなことがありました。

具体的には以下のような訴えがありました。

・治療のために仕事を辞めて、不育症治療に全身全霊を捧げてきた
・薬を飲むと返って体調が悪くなる気がしていた
・最近、生理の周期が長くなってきた
・生理の時、出血量が少なくなってきた
・食欲はあるが、いざ食べようとすると、直ぐにお腹が一杯になる
・生理の後は、立ちくらみがすることがある
・最近の健康診断で、低コレステロール気味だと言われた。
・自己流で食事制限をしていた(動物性食品をやめて野菜や豆腐をたくさん食べている)

 

妊娠・出産には、意外かもしれませんが、コレステロールが必要です。

妊娠・出産におけるコレステロールには、次のような働きがあります。

 

<コレステロールから作られているもの>

 

・副腎皮質ステロイド(抗炎症ホルモン)
・エストロゲン、プロゲステロンなどの女性ホルモン
・人体の最小単位である細胞の外側にある細胞膜の1/2

 

<コレステロール低下で見られる現象>

 

・ 細胞の生まれ変わりがスムーズにいかない
・ 生理不順になりやすくなる
・ 月経血の減少
・ 子宮内膜が薄くなる
・ 不妊や不育症の傾向が出る
・ 体外受精で採卵数が減ってくる

 

コレステロールは約8割を肝臓で作っていますが、足りない2割は食事で取り入れた動物性食品から、動物性脂肪をベースに作られます。

食事制限によりコレステロールの摂取を減らしますと、徐々に血中コレステロールが低下していきます。

不妊症や不育症の方々の中には、体質改善を目的に、無理な食事制限や食事療法をされるケースがあります。

今回の患者さんのように動物性タンパク質を極端に減らした場合には、月経量の低下や貧血症状などが見られることがあります。

また、血中コレステロールが低下してきた場合には、不妊や不育症に繋がる可能性もあり注意が必要です。

これは、上の一覧にもありますように、コレステロールが妊娠・出産に重要な役割を果たしているからです。

また、動物性食品から吸収された動物性タンパク質も、妊娠や出産にとって重要な栄養素です。

女性は、生理時に出血を伴いますので、その分の血液を補う必要があります。

あなたの身体の組織は、タンパク質から作られています。

血液も身体の組織の一部ですので、タンパク質から作られています。
女性の場合には生理が月に1回起こりますので、その出血した血液を補うためにも動物性タンパク質の摂取は欠かせません。

豆腐などの植物性タンパク質で、タンパク質を摂る場合には、摂取量に注意が必要です。

豆腐の場合には殆どが水分で、タンパク質の含有量は少なく、実際に摂取できるタンパク質量は、どうしても少なくなります。

大豆で摂る場合にも、女性で1日40~50グラムの目安となる量を摂るには、かなりの量となります。

このようなことから、動物性タンパク質を摂ることが大切になってきます。

 

<初回時の東洋医学的な所見>

 

鍼灸治療を進める上で、東洋医学的な観察をすることが必要です。

結果は、西洋医学的な所見と同様に血(血液)の不足状態を示す血虚と呼ばれる状態と消化器系や血流作用の弱りを示す脾虚という状態が、強く観察されました。

これは、食べたものを上手く消化吸収できず、血液を十部に作れない、また、作られた血液を全身に十分、送り込めないことを意味しています。

その結果、生理不順や経血量の乱れが生じたわけです。

また、不育症のように流産を繰り返す場合には、血を下さないようにコントロールする能力を上げる必要があります。

更に、十分な栄養が子宮や卵巣に届くように血を巡らせることが必要です。

これにより、質の良い卵を作る、胎盤に新鮮な血液が届くようにすることができ、不育症の改善に繋がります。

 

<初回の鍼灸治療>

まず、脾の弱りを戻し消化吸収機能を高め血液が多く作られるようにし、更に、流産予防のために、血を漏らさないよう「三陰交」と言うツボに鍼を刺しました。

三陰交は数多くの鍼灸の臨床試験で、子宮や卵巣の血流を増加させる働きが認められています。

この作用により、子宮内膜の肥厚や卵胞の発育のための新鮮な血液を送り込む目的で、よく使用されます。

今回の患者さんの場合、特に「血虚」が強かったため、鍼は普段よりも深く、約3cm程度刺しました

これは、「血」は比較的深いところを流れていると、古代の医師たちは考えており、実際、ツボに力がないと簡単に深く鍼が刺さっていきます。

この状態から、ツボに力が戻るように鍼の操作をします。

更に、子宮や卵巣の機能回復のために、関元穴、子宮穴に2cm程度の深さまで刺しました。

使用した鍼は、長さ40mm 太さ0.18mmです。

次に、うつ伏せで腰部、骨盤周囲の反応をみながら、2~4本程度の鍼治療を施しました。

以後、同様の鍼治療を週1回の頻度で約3ヶ月、続けました。

 

<初回後のカウンセリング>

初回の鍼灸治療後に、これからの鍼灸治療の進め方や日常生活についてのカウンセリングをしました。

ご提案した内容は以下の通りです。

・ 積極的に動物性タンパク質を食べる
・ 東洋医学的には甘味は「脾」を弱らせるので、あまり食べ過ぎない
・ 週1回のペースで鍼灸治療を受ける
・ 出来れば、最低3ヶ月は避妊する

早く赤ちゃんを授かりたい、産みたいという気持ちは痛いほど分かりますが、習慣性流産の方が最も注意をすべきことは、「卵の質を上げること」です。

そして、「胎児を育てる10ヶ月の身体作りをすること」です。

複数回、流産を繰り返す方の場合、大きく3つの原因が考えられます。

1.体調不良
2.卵の質の低下
3.子宮内膜の選択能の低下

1は分かりやすいのですが、問題は2と3です。2の卵の質の低下は、初期流産の最も大きな問題です。

卵の質の低下の原因は、一般的には年齢と言われますが、現在では、それだけが大きな原因とされていません。

不妊への鍼灸治療を行うことにより、卵の質が改善されたという報告がよくあるからです。

当院におきましても、そのようなケースを多く経験しています

年齢が以外の原因としましては、栄養不良と血流悪化が考えられています。

そこにフォーカスを当て、鍼灸治療や生活指導を受けて頂きますと、以下のような結果を得られることが多くあります。

・ 採卵数の増加
・ 子宮内膜の肥厚増加
・ 女性ホルモンの安定化
・ 分割卵のグレードが上がった

体外受精で採卵する場合、採卵後の卵を受精卵にする際に分割の仕方により「グレード」と呼ばれる順位付けがされます。

必ずしもグレードが高い卵が妊娠する訳ではありませんが、一定の相関性はあります。

但し、卵の質を改善するためには、最低でも3ヶ月程度はかかります。

卵子が、卵巣内の卵胞で、栄養や酸素、女性ホルモンの影響を受け成長し、排卵されるまで約3ヶ月かかるからです。

今周期に排卵しようとしている卵は、実は3ヶ月前から成長を始めた卵なのです。

生活改善や鍼灸治療を開始してから、卵胞内に十分な栄養や酸素、女性ホルモンが供給されるようになり、成長し始めた卵は、3ヶ月後にやっと妊娠に適した受精卵になる権利を得るのです。

不育症の方は、妊娠する力はあるが、育てる力がないとも言えます。卵の質の改善とあなたの「育てる力」を作るのに3ヶ月程度かかります。

当院で、最低3ヶ月以上の鍼灸治療と平行した避妊をお勧めしている理由はここにあります。

習慣性流産の問題の中で3の選択能の低下は、案外、知られていないことかもしれません。

これは子宮内膜には、もともと受精卵(胚)の質を見分ける能力があるというものです。

詳しくは、「胚と脱落膜の相互関係に着目した着床メカニズム」として、埼玉医科大学教授産婦人科 梶原 健先生の論文に詳しく発表されています。

その中で、健康な方の子宮内膜では、良質な受精卵の場合には妊娠反応が進んでいきますが、不良胚では内膜に着床が出来ないようになっているとあります。

ところが習慣性流産をしてしまう方の子宮内膜では、不良胚でも受け入れてしまい妊娠が成立することが分かってきました。

そのためもともと成長しない不良胚が着床・妊娠することで、結果的に初期流産になってしまうということです。

現在のところ鍼灸治療で、習慣性流産に効果がある理由は、1と2(体調と卵の質の改善)に対するものが主だと考えられていますが、3(子宮内膜の選択能)に対する効果もあるのかもしれません。

ただ、鍼灸治療によって子宮内膜の選択能改善があるのかどうかは、更に現代医学の臨床報告を待つしかありません。


<3ヶ月後のご様子>

「身体の中が変わっているのが分かります」

治療を開始して、約3ヶ月が経ちました。この3ヶ月間、食事内容も以前とは違い、しっかりと動物性食品も食べて頂きました。

そのせいか、初回の時に見られたような顔色の悪さや、生理後の体調不良は見られなくなりました。

また、血液検査の結果では、コレステロールの上昇が見られました。更に生理のときの出血量も増えてきました。

最初にお約束した3ヶ月間をしっかりと過ごして頂いたことで、患者さんの身体は他覚的にも自覚的にも大きく変わりました。

目標設定をしっかり掲げ、それを数値としてクリア出来たことで大きな自信になったようでした。

3回目の生理周期が無事終わったことで、いよいよタイミングを取り始めることを提案しました。

 

<そして4度目の妊娠>

タイミング療法を始めてからも、週1回の治療は続けて頂きました。

そして4度目の妊娠、ご本人は、毎日がドキドキで、気が気でなかったようでした。

ただ、今回は今までとは違い、妊娠7週での心拍確認まで実にスムーズに進んだと報告がありました。

ご本人によりますと、今までは、妊娠反応から胎嚢確認、心拍確認までの間も、少し小さかったり、出血があったり、遅れたりと、小さなトラブルが絶えなかったそうです。

それが、今回は全く問題がないまま心拍確認まで終えたそうです。

また、「妊娠している感覚すらない。」ほど、お元気だったそうで、食べた後に少しだけ、「つわりかな?」と思うほどの胃のむかつきを感じられただけだったそうです。

妊娠反応が確認された後は、1~3本程度の軽い鍼灸治療に変更しました。

妊娠したから軽くしたというよりは、既に、私が患者さんの身体の状態をほぼ把握していましたし、妊娠までの間に身体作りが出来ていますので、強い刺激をする必要がないからでした。

軽くバランスを取るだけで、後はからだが、勝手に調整をしてくれるようになっていました。

その後、安定期まで月1回の施術をしましたが、体調管理程度の軽い治療だけでした。

安定期以降も異常は見られず、元気な赤ちゃんをご出産になりました。

「やっと我が子を抱けました。諦めなくて良かった…。」

出産後、患者さまから、上のようなうれしいお言葉を頂きました。私も率直にうれしかったです。

 


 

<習慣性流産と胚異常と脱落膜の選択能>

最後に参考として、詳しく、子宮内膜の選択能力についてご紹介しておきます。

男女ともに健康なカップルの妊娠する確率は、月経周期毎に約2~3割と言われます。

また、体外受精において、外見上、健康な受精卵を子宮内へ移植出来る確率は約5割とされています。更にその胚が妊娠に至る確率は約5割となっています。

会わせて計算しますと、多く見積もっても約2~3割となります。実はあまり高い確率ではないということです。

こうした成功率の低さはどういった原因によるのでしょう。

ある研究では、外見上、健康な分割胚を遺伝子解析したところ、約7割で染色体の異数性が発見されたとのことです。

これはヒト特有の現象らしく、猿ではみられないそうです。

染色体の異数性とはいわゆる染色体数の異常のことです。

これらの異数性を持った分割胚は、正常に分化、発育することが出来ないため、本来は自然淘汰されてしまうことが多く、出産には至らないのが自然です。

実は、この自然淘汰の中に、脱落膜と呼ばれる子宮内膜の組織が関係しているとされています。

脱落膜は受精後、妊娠を継続すれば胎盤の一部になる組織ですが、この脱落膜に胚の質を見分ける能力があるらしいのです。

臨床試験では、子宮内膜間質細胞と呼ばれる細胞が、良質の胚にだけ反応して情報伝達物質である数種類のインターロイキンを分泌することが分かっています。

すなわち、このインターロイキンが正常に分泌されないと、分割胚は着床し難くなるといえます。

良質胚を移植した際に、インターロイキンが分泌され、それによって分割胚の着床率が上がることを利用して、体外受精の際に「シート法」と呼ばれる移植法に応用されています。

シート法では、採卵後の受精卵を分割する際に使用した培養液を保存しておき、胚移植前に、予め子宮内に培養液を注入することで着床率を上げることを目的としています。

分割胚が良質であった場合には、培養液にインターロイキンが含まれているため、シート法は妊娠に有利に働くものと考えられます。

しかし、分割胚の一部が不良であった場合には、インターロイキンは含まれていないため、着床率は下がるかもしれません。

このように妊娠・出産することには、身体のさまざまなホルモンや神経伝達物質などが絡んでおり、不妊治療の難しさを感じさせられます。

 

 

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