再燃性うつ病への鍼灸治療:患者さまの感想「うつ病を克服でき、事業を立ち上げることができました。」
朝日新聞が発行している雑誌アエラにもありましたが、好景気なのにうつ病が増えている傾向にあります。
これはタイトな期日、忙しくなっても人員が増えず、負担が増加するなどにあります。
働く人にかかるストレスが増え、また、長期にに渡りストレスがかかっていくことにより、うつ病が増えているわけです。
今回の症例は、過去、2回うつ病になり、克服されましたが、4年前に抑うつ症からうつ病へと進行された患者さまへの鍼灸治療になります。
うつ病は再燃性に強い病気です。
今回の例でも、20代、30代とうつ病になり克服され、40代にまた再燃されています。
○今までの経過
・20代に初めてうつ病になる、休職して改善
・復職後、部署の移動があり、適応はできたが、慣れてくるに従い、うつ病を再燃した
・退職して、改善した
・転職をし、慣れてきた後に、頑張りすぎ、30代にまたうつ病を再燃した
・4年前に、別の会社に転職した
・仕事の内容は、商社関連で19年間変わらない
・仕事内容より、慣れてくると頑張りすぎるので、うつ病になってしまう感じ
・今回も、仕事に慣れ、頑張りすぎ、4年前から抑うつ症になった
・2年前に東京へ転勤となり、単身赴任となり、新たな人間関係に悩み、また、オーバーワークとなり、うつ病を再燃した
・帰省できず、退職し、2年目
・去年8月ごろに、肉体労働のアルバイトを始め、症状が軽快していった
・昨年12月に、アルバイト先も退職した、現在、就活中
・今年の3月ごろから、物忘れ傾向、注意力がまだらになってきた
・動作が緩慢になり、場合によってはお茶わんなどを持っていても落とす
・自分なりにきっちりと集中するタイプなので、できないと自分を責めてしまう
・郵便局で切手の清算ができないこともあった
・病院にて睡眠薬・睡眠導入剤を処方されたが、自己判断で中止した
・DSM-Ⅳによるチェックシートで、うつ病関連の質問に答えることができなかった、判断力もなかった
・今年に入り、半年間、抗うつ薬を自己判断で中止し、症状が悪化した、その後、再服薬
・服薬に対する不安感が消えない
・硬と分に不快感が常にある
・冷や汗、頭がボーとする、呂律が乱れることが続く
・最近、急に肩こりがひどくなり、首のしびれ感も出てきた
・家族から顔が無表情と言われる
・今回の症状に心療内科では、うつ病性障害と診断されている
・鍼治療は初めて
再燃性うつ病への鍼灸治療と施術後の状態について
初回の治療
鍼治療は初めてということでしたので、できるだけ軽い刺激で治療していくように心がけました。
肩凝り、首の緊張感・痺れなどを強く訴えておられましたので、最初にそちらへのアプローチをしました。
うつ伏せの状態で、首、肩、背中の筋肉のコリや緊張のあるところ、左右8か所に鍼を刺し、そのままの状態で約15分間、寝てもらいました。
使用した鍼は、直径0.20ミリ、長さ50ミリです。
この間、どくどくと血液が流れていく感じがしたそうです。
その後、すべての鍼をいったん抜き、コリや緊張感の残っているところに、丁寧に鍼を刺しました。
また、背骨の一番上のあたりに大椎というツボがありますが、その辺りが盛り上がった状態になっていましたので、「斎刺」という鍼の刺し方で治療しました。
背骨に歪みも見られましたので、矯正する鍼をしました。
次に、仰向けの状態で、脳への血流量を増やすツボ、意識を鮮明にするツボなど5か所を選択し、鍼を刺しました。
使用した鍼は、直径0.20ミリと0.16ミリ、長さ15ミリです。
鍼を刺した後に、感覚神経に働きかけ、血流の調整をし、そのまま約20分間、寝てもらいました。途中、一度、からだ状態を確認しました。
からだのバランスが調い、全身、特に、脳に血液が多く流れたことを確認し、すべての鍼を抜きました。
治療後は、からだ全体が軽くなり、すっきりしたとありました。
2回目の鍼治療
初回の鍼治療の後、「躁転」を感じ、物事を決定できるようになった、家族から顔に表情が出るようになっていると言われたとありました。
その後、時間経過とともに、元の状態に戻っていくように感じるということでした。
これに関しましては、うつ病の鍼治療において、治っていく一つのパターンであることを説明し、納得してもらいました。
鍼治療は初回と少し変更しました。
背中にあるツボのうち、幾つかに緊張感や、逆に緩み感が強いところがはっきりと出ているところがあったからです。
うつ伏せの状態で、首のコリ感に対し4か所に、直径0.20ミリ、長さ50ミリの鍼を用いて刺しました。
緊張感特に強い背骨の上にあるツボ2か所、および、背中の緩み感の強いツボ1か所(左右で2か所)に、直径0.18ミリ、長さ30ミリの鍼を皮膚に沿うようにして刺しました。
約15分間、そのままの状態で寝てもらいました。
その後すべての鍼を抜き、大椎を調整し、背骨の歪みを矯正する鍼治療しました。
次に仰向けの状態で、鍼治療をしました。
お腹に皮膚色が暗く感じられるところがありましたので、それを改善するお腹のツボ1か所と、からだの力を漲らすことのできるお腹のツボ1か所、および、全身の血流改善するツボを3か所選択し、鍼を刺しました。
使用した鍼は、直径0.20ミリと0.16ミリ、長さ15ミリです。
初回と同じ、鍼治療の方法を選択し、約20分間、そのまま寝てもらいました。
鍼治療の後は、からだ全体に力が入ってきた感じとありました。
3回目の鍼治療
初回の後のような「燥転」の感じはなかったが、短いレンジで上がったり下がったりを繰り返しながら改善してきている感じとありました。
また、嫌な汗をかく回数が減り、前胸部の灼熱感が消え、首から肩の凝り感が押し上げてくる感じも減少したとありました。
鍼治療は、2回目とほぼ同じです。
背骨の歪みは解消されていましたので、そこへのアプローチはしませんでした。
4,5回目の鍼治療
3回目の治療後、4,5日して、急に落ち込みが生じ、全身倦怠感、足に力が入らない感じが生じたようです。
ここまで、順調に改善していたので、ご本にはショックの様子でした。
うつ病の改善の過程には、必ずこのようなことは起こる、しかし、最初よりはひどくはならないなどを説明し、前向きに鍼治療を受けてもらえるようにしました。
鍼治療は3回目と同じです。
5回目、来院時には、4回目の鍼治療の後、調子が戻り、朝のウォーキング、筋トレなど活動を増やしたところ、昨日、急に無気力感が生じ、頭にかすみはかかった状態で、何もできないとありました。
今朝は、来院するまで、うずくまったままの状態で過ごしていたとありました。
背中を診ますと細いみみずばれのようなものが浮いているのが散見されました。
これを細絡と呼び、血管から血液が漏れている状態で、「瘀血」と呼ばれるものです。
頑張りすぎたり、強いストレスなどにより生じることがよくあります。
今回の場合は、3回の鍼灸治療で症状の改善が大きくみられ、気持ちがはやり、活動しすぎたことにより、反動が生じたことによるものです。
患者さまには、このことを丁寧に説明し、納得して頂きました。
鍼治療は、前回とほぼ同じですが、背中の「細絡」に鍼を刺し、血液を少し絞り出しました。
また、背中を中心に10か所、温灸をしました。
6回目の鍼治療
前回の治療後、すっきりとした感じが続き、体も動くようになったそうです。
しかし、その後は、頭は働くが、からだが重く感じられ、気力も出なかったとありました。
この1週間の間、天候が悪く、雨の日が続いていました。
雨が続きますと、健康人でも怠くなりますが、うつ病などでは、その影響を強く受け、無気力・全身倦怠を感じることはよくあります。
背中の「細絡」はほぼ消えていましたが、お腹を診ますと、右上のあたりに皮膚が、しっとりとし、硬いところがありました。
鍼灸治療は、前回とほぼ同じで、お腹の反応が出ているところに鍼を刺し、正常な状態へ戻すことを加えました。
7~9回目の鍼治療
前回の治療後、躁転を強く感じ、何もしないようにした。その後。乱高下あるものの、自分でコントロールできるようになった。
治療を受けるごとに、からだのだるさ、下半身のしんどさは消失して、楽になってきたとありました。
鍼灸治療は、前回とほぼ同じです。
10回目の鍼治療
心療内科医と相談し、抗うつ剤は中止、抑躁剤と安定剤、睡眠導入剤となったと報告がありました。
躁転しかけることが多いが、自分で抑制をかけることができるようになってきた、中途覚醒が強く、辛いとありました。
鍼治療はほぼ同じです。
鍼治療中、全身に何か流れていくことを感じたとありました。
これは、いわゆる「気」の流れで、からだの回復が見られ。感じることができたようです。
11~15回目の鍼治療
ご本人から、自分で事業を立ち上げ、自営業で頑張っていきたいとありました。
うつ病患者さんが、ご自分で決断し、しかも、事業を立ち上げるのは、大変なことです。
鍼治療には、前向き感を強くする働きがありますので、少し、効果が出てきたようです。
この間、事業立ち上げで頑張るためか、躁転し、疲れを感じず仕事ができ、逆に、不安感があるとのことでした。
鍼治療の方法は、変化ありません。
16~20回目の鍼治療
1ヶ月以上、頑張りすぎたせいか、徐々に疲労感を感じるようになってきた、また、家族に大きな問題が発生し、その対応にも追われ、歩行中につまずいたり、集中力が落ちてきたとありました。
鍼治療に、元気が充実するような治療を加え、特に、自律神経が安定するような手法も加えました。
この間、波はあるが、安定、食欲も出、睡眠時間も4~5時間は取れるようになったとありました。
事業の準備も進み、安心感があり、そのことも良い影響を与えているようでした。
21~23回目の鍼治療
徐々に、イライラ感が低下し、情緒も安定するようになってきました。
睡眠の安定し、自己コントロールはしっかりとできるようになってきたとありました。
全体的には、波はあるが、改善に向かっている様子でした。
事業も立ち上げ、忙しくなっているようでしたが、その影響もなく、うまくいっている感じでした。
鍼治療の方法に、変化はありません。
24回目の鍼治療
波もなくなり、からだ全体の調子はよく、症状の出現も少なくなりました。
躁転もなく、順調に進んでいました。
立ち上げた事業も忙しくなり、今回の鍼治療で、一旦、様子を見ることになりました。
施術者の感想
うつ病は、再燃性が強いことはよく知られており、改善してからも、油断ができません。
また、再燃しますと治り難いこともよく知られています。
今回の患者さまは、まさにこのパターンに当てはまります。
また、心療内科の先生からは、双極性うつ病という診断は出ていませんが、症状を診ますと双極性うつ病の可能性は否定できません。
鍼治療としても、なかなか難しい疾患といえます。
そのため、毎回、鍼治療の前に、状態をよく伺い、不安感が生じないように説明することに努めました。
患者さまが、今回は完治させ、自分で事業をして行くという強い信念があったことも、鍼治療に良い効果をもたらしています。
鍼治療は、初めてでしたが、最初のカウンセリングで、鍼治療の利点などをしっかりと理解して頂いたことが、今回の良い結果につながったようです。
今回の症例でもそうですが、うつ病に首・肩のコリ感や腰痛などの筋骨格系の症状がある場合は、鍼治療の効果が高い傾向にあります。
これは、肩こり・腰痛などの症状は、鍼治療の効果が出やすく、からだの症状が改善されることで、うつ症状の改善につながるからです。
はっきりと効果出ることにより、「鍼で治る」という期待感が強くなり、自信もついてくるからともいえます。
逆に、肩こり・腰痛などの症状がないと、自律神経や脳血流を増加させ、脳内セロトニンを増やす方法を取りますが、なかなか変化を実感できません。
変化を実感できるまで、4,5回の鍼治療が必要になってきます。
この4,5回の間を我慢できず、脱落することが多く、残念な結果になります。
施術者サイドからは、何とか継続して頂ければ、効果が出てくるので、効果の実感が無くても、通院して頂ければと思っています。
今回の患者さまは、肩こり・腰痛などの症状は、早く改善できましたが、頑張りすぎるせいか、自律神経症状が次々と出現してきました。
腹痛・下痢、不眠、食欲不振などです。
これらの症状は、治っていく過程においてよく出てきます。
鍼治療により、脳を含めた全身の血流が良くなり、栄養が行き渡ることにより、からだの機能がついていくことができなくなり、引き起こされるものです。
運動を全くしていない方が、突然、運動をすると筋肉痛だけでなく、さまざまな症状が出ることがあるのと同じような状態です。
このような場合は、一つ、一つの症状を追いかけていくのではなく、全体の様子を観察し、病状をしっかりと弁別し、的確な治療をすることが大切になります。
今回は、それが上手くいったようで、再燃性のうつ病を約半年で、改善でき、ご本人目標であった事業を立ち上げることができました。
鍼灸治療は、うつ病にも効果が期待できる治療法ですので、うつ病で悩んでいる患者さまは、治療の選択肢の中に入れて頂ければと思います。
東洋医学からの視点
うつ病は現代病とされていますが、そうでもなく古くからあります。
古代の医学書にも、多く記載されています。
うつ病は、持続されるストレスが引き起こされます。
ストレスは、さまざまな感情を生み出します。
仕事で、上司から理不尽なことを言われると、怒りが生じたりするなどです。
東洋医学(中医学)では、内臓にそれぞれ、「感情」があるとしています。
心臓:喜
肺臓:悲
肝臓:怒
脾臓:思
腎臓:恐
例えば、悲しみすぎると、肺が傷つき、呼吸系の病気になりやすいなどとしています。
現代社会におけるストレスは、怒りや思い(深く考える)とのつながりが強くあります。
このため、うつ病は、肝・脾の臓器の働きが乱れ、さまざまな症状を引き起こすとしています。
肝は筋肉との関係が深く、肝の働きが乱れますと、筋肉の緊張・凝り感が生じます。
また、血液のプーリング作用もあり、各臓器に必要な血液を送り込んでいますので、この働きが乱れますと、各臓器に影響が行かず、さまざまな症状が生じます。
脾は血液を運搬する作用があり、この脾が働かないと全身に血液を送り込めず、同じくさまざまな症状が起こります。
この脾は、飲食物を消化・吸収し、栄養素に変える働きがあります。
脾の働きの乱れは、栄養がつくれなくなり、同じくさまざまな症状が出現します。
今回の患者さまは、頑張りすぎの傾向にあり、仕事も集中し、どんどんとこなしていくモーレツタイプです。
東洋医学(中医学)では、頑張ることができるのは、肝の働きによるとしています。
患者さまは、がむしゃらに頑張ることにより、仕事の成績は上がり、充実感はあったようですが、知らず知らずのうちに、「肝」が傷ついたようです。
肝の興奮により、頑張っていることにまた、「火が付き」、燃え上がるようになり、イライラ感、焦燥感が強くなったようです。
燃え上がっていくイメージですので、緊張する筋肉も首や肩になっていきます。
また、凝り感がからだの内から押し上げていくように起きてくるというのは、まさにこの状態を示しています。
この「燃え上がり」感が、脳まで進みますと、物忘れや、集中力の低下、無気力感など引き起こします。
これは、脳内の栄養物質やエネルギーが焼き尽くされることによると考えています。
「肝」がこのように興奮しますと、栄養不足になり、「脾」から栄養を取り上げようとします。
栄養を取り上げられた「脾」の働きは、当然、落ちます。
「脾」は、思考力と密接につながっていると考えていますので、考えることができなくなったといえます。
また、からだ全体へ栄養を送り込む働きも低下しますので、食欲不振・下痢・腹痛や不眠など引き起こします。
今回の患者さまは、まず、「肝」が傷つき、その後、「脾」が傷つき、その両者が相関してからだにさまざまな症状を引き起こしたといえます。
鍼灸治療は、まず、肝の興奮を正常化し、次に脾の働きを元に戻すことを目的におこないました。
肝と筋肉は相関していますので、肩こり・腰痛の症状を改善させることは、大切なことになります。
肝の働きは、「動」の面が強く、少しの環境の変化で、状態が変わります。
今回の症例でも、感情・からだの動きなどが、乱高下することがあったのは、このことによります。
ただ、主たる原因をしっかりと把握していましたので、あわてることなく対応ができ、比較的早く、うつ病が改善したといえます。
大阪 心斎橋の鍼灸院 天空では、このように患者さまの複雑な症状も、その成り立ちは同じところにあると考え、そこを見極め、鍼灸治療を進めていきますので、患者さまの突然の変化に対しても、しっかりと対応できます。
今回の症例では、さまざまな症状があり、治療の過程においても、別の症状が出現しましたが、成り立ちは、頑張り過ぎから「肝」が傷つき、その状態が長引き「脾」にも影響を及ぼし、生じたといえます。
また、「肝」は動、「脾」は、静ですので、双極性うつ様の症状が出現したといえます。
このように、東洋医学(中医学)的に考えていきますと、複雑な病気も読み解くことができ、症状改善へと導くことができます。