妊娠をするためには多くの要素が働きます。それらの要素のうち、最も大きく働く要素は卵の質です。
卵の質が悪ければ、受精や卵の分割がスムーズに進まず、例え上手く妊娠しても、初期流産をする確率が高くなります。
一般的には年齢と共に悪くなり、一旦悪くなると良くなることはないといわれています。その一方で、鍼灸治療では卵の質が良くなるという論文も海外では見られます。本当に卵の質は良くなるのでしょうか?
卵の質は何で決まるか
教科書的に言うなら、産まれた時から女性の卵巣にある卵子は、年々古くなり、新しく生まれることはないとされています。そのため、卵子は、年齢と共にどんどん質が悪くなり、一旦悪くなると良くなることは無いとされているのです。
ただ実際には、体外受精や顕微授精の採卵に合わせて鍼灸治療を行うと、今まで採卵していた卵よりも、グレードが良くなることはよくあります。また、今までは採卵できなかった方から、採卵できるようになるといったケースも、よく経験しました。これは、「卵の質が良くなった」という、客観的な証拠と言えそうな気がします。
では、卵の質はどのようなことで決まるのでしょうか?
生まれた時から卵巣に備わっている卵子は、減数分裂を2回した後に、分裂や成長を休止し、初潮までは活動しません。
初潮後は、選ばれた卵だけが成長を再開し、約3ヶ月かかって排卵します。排卵自体は毎月起こりますが、その卵は3ヶ月前から成長していたということです。
卵胞の中で成長する3ヶ月間、卵は、卵胞液から栄養や女性ホルモンを受け取って成長しています。この卵の成長する3ヶ月間に、如何にスムーズに卵が栄養を受取るか、女性ホルモンを受け取るかが、質のいい卵を作る重要な要素です。
質の卵にするには
質の良い卵を作るには、十分な栄養素と栄養を運ぶ血流が必要です。栄養をたくさん取っていても、血行が悪ければ、卵巣の中まで栄養を届けられません。逆に、血行は良くても、栄養失調であれば卵巣の中に栄養は届きません。
血行と栄養の二つの条件を満たした上で、3か月間しっかり卵を育てれば、質の良い卵が育つようになります。できるだけ良い条件で、長期間卵を育てることが重要なのです。
更に鍼灸を足すと
鍼灸治療は、卵巣付近のツボを刺激することで反射的に血流を増加させたり、手足の末梢になるツボを刺激して、脳を通じて女性ホルモンの分泌をコントロールさせたりするこができます。
また精子の質を良くすることも可能ですし、受精卵を受けとる子宮の運動性や子宮内膜の肥厚もコントロールすることができます。正に一石二鳥にも三鳥にもなります。
海外論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26054202
こちらでは多嚢胞性卵胞症候群(PCOS)の女性で、体外受精を行った患者さんの統計を取っています。
その結果として、鍼灸治療を行った群では、良質の卵が採れる確率が高くなり、卵胞液に含まれる幹細胞因子が多かったとのことです。
PCOSの方は、排卵がスムーズできないために、卵胞が破裂しないまま卵巣内に残ってしまいます。無排卵となりやすため、体外受精の適応になることがあります。
ただ、実際には全く排卵されないわけではなく、排卵が起こりにくい程度の方も存在します。そのため、経産婦が排卵期の腹痛や腰痛で婦人科を受診して、初めてPCOSを指摘されることも少なくありません。
海外の文献を見ていると、比較的PCOSで体外受精を受ける方は多いようです。PCOSの方は卵胞が多く育つため、採卵数が多いことも、体外受精を勧められる原因かもしれません。
採卵数が多ければ、確率的には体外受精の成功率は上がります。その一方で、採卵数の多さに比べると、質のいい卵が取れにくい場合も多いようです。そのため、鍼灸治療で質のいい卵をたくさん採ろうというわけです。
今回の論文では、鍼灸治療の効果により、採卵数や卵の質が改善し、妊娠率も高くなったそうです。
鍼灸治療は、卵の質を改善する働きがあるということです。