当院は、不妊原因の中でも、特にPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方に多く来院して頂いています。
PCOSは、様々な原因で起こる排卵障害です。私たちは、PCOSの鍼灸治療に特に力を入れて施術をしています。
生理不順や排卵障害の中でも、母親になりたいと願う女性を最も多く悩ませるPCOSを、どうしても治したいと思っているからです。
【PCOSの診断基準】
PCOSの定義は上の通りです。説明文が多く、分かりにくく感じるかもしれませんが、Ⅰ~Ⅲに書かれていることは、一つのストーリーの中で起こることです。
つまり月経異常も、多嚢胞性卵巣も血中の男性ホルモン高値も、LH高値も同じ流れの中で起こることなのです。
【PCOSが起こるストーリー】
PCOSを知るには、まず正常な排卵がどのように起こるかを知る必要があります。下の図をご覧下さい。
下垂体から2つのホルモン、LHとFSHが出ています。この二つのホルモンは、共に卵巣に働いています。
卵巣からはエストロゲンとプロゲステロンが出ていると書かれていますが、実際には、卵巣から一気に2つのホルモンが出ているわけではありません。
実際の働きは、LHがまず卵巣内の卵胞に働きかけます。LHが卵胞に働くと、卵胞内の細胞が血中のコレステロールを元にアンドロゲンという男性ホルモンを作り出します。この時作り出された男性ホルモンが、先ほどPCOSの説明に出てきた男性ホルモンです。
次にFSHが卵胞内の細胞に働きかけ、先ほど作られた男性ホルモンであるアンドロゲンを、エストロゲンに変換します。これが上の図にはない部分です。
こうして作られたエストロゲンが多くなると、それを感知した視床下部が、今度はLHを急激に上げるように下垂体に働きかけます。このLHの急激な上昇を、LHサージと言い、排卵の合図になっています。
無事排卵されると、排卵後の卵胞が黄体となり、黄体ホルモンであるプロゲステロンが分泌されます。これが上の図にあるプロゲステロンです。
PCOSでは、診断基準にあるように、様々な原因で
LHが高値になるため、男性ホルモンがかなり多く作られます。余りにも多く男性ホルモンが作られると、エストロゲンに変換することができず、そのまま男性ホルモンとして働き、その結果排卵が抑制されてしまいます。
(排卵障害)
男性ホルモンが増えすぎると、FSHが上手く分泌されないため、中途半端にしか卵胞が育たちません。そのため小さい卵胞が複数育つ、
多嚢胞性卵巣になるのです。
【PCOSの原因】
PCOSが起こる条件の中に、
FSHに比べてLHが高いというものがあります。このLHが高いということがPCOSの最も特徴的な部分であり、そこから連動して排卵障害や生理不順が起こります。
ではなぜLHがFSHよりも高いのでしょうか?
LHが高くなる原因の一つが、過剰なストレスです。あなたがお仕事やプライベートでストレスを受けると、真っ先に反応するのは視床下部です。
この時、視床下部の働きが乱れると、視床下部から出されるホルモン分泌に乱れが生じます。FSHもLHも視床下部から出されるホルモンがきっかけで、下垂体が分泌するホルモンです。
そのため視床下部からの指令が乱れるだけでも、FSHとLHのバランスが崩れることがあります。
またもう一つ大きな影響を与えるのが、インスリンというホルモンの存在です。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きをしています。
このインスリンの血中濃度が上がると、LHが高くなることが分かっています。インスリンが多く分泌される人とは、過食傾向にある肥満の方や、家族性の耐糖能異常を持つ方が多いようです。
※耐糖能異常は血液検査で簡単に分かります。気になる方は医療機関でご相談下さい。
そのため肥満傾向の方では、排卵異常や生理不順になる方が多くなります。また糖尿病の方や、家族に糖尿病の方がいて体質的に血糖値が下げにくい方も、PCOSになりやすい傾向があります。
肥満傾向の方の場合には、第一に適切な食生活や糖質制限で痩せることが一番です。できるだけ健康的に、専門家の手を借りて痩せることをお勧めします。この時に、過剰な糖質制限をし過ぎると、皮下脂肪の急激な減少で、逆に生理不順になることがありますのでご注意下さい。
【ストレスによるもう一つの排卵障害:PCO、PCOM】
ストレスで起こる排卵障害には、もう一つのPCOSがあります。こちらは厳密には、PCOSとは呼ばず、PCOMとかPCOと呼ばれます。
先ほどPCOSは、ストレスに反応して起こるとご説明しました。ストレスは視床下部に影響を与えて、ホルモン分泌を乱してしまうというのが、先ほどの説明でした。
ストレスの影響が視床下部に出るのは先ほどと同じですが、もう一つのPCOは視床下部から副腎という臓器に命令がでるところから始まります。
副腎は、腎臓の上にある三角すいの形をした内分泌腺です。
視床下部がストレスを感じると、視床下部からの命令で、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。この副腎皮質ホルモンは、かゆみ止めや炎症止めに入っている、副腎皮質ステロイドと言えば分かりやすいかもしれません。
このコルチゾールは、更に副腎に働きかけ、アンドロゲンという男性ホルモンを分泌させます。この男性ホルモンは、LHにより卵胞で作られていた男性ホルモンと同じものです。男性ホルモンは、主に卵胞と副腎で作られているのです。
ストレスの影響により、副腎で男性ホルモンが作られると、卵巣内の男性ホルモンと共に男性化を起こします。すると、卵巣での卵胞成長が阻害されてしまい、多嚢胞性卵巣の兆候が出てきます。LHが高値とならないため、厳密にはPCOSではありませんが、多嚢胞性卵巣や排卵障害、生理不順は出ることになります。
【PCOSの鍼灸治療】
PCOSというものが、LHとFSHのバランスが乱れ、LHが高くなることがきかっけで、男性ホルモンが多くなり過ぎて起こることをご説明してきました。今からは、LHとFSHのバランスを整えてPCOSを解消し、あなたが妊娠・出産するための鍼灸治療についてご説明します。
鍼灸治療には、LHとFSHのバランスを整える作用があることが分かってきました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21816787
(鍼灸治療はLH/FSHのバランスを整え排卵障害を解消する)
LHとFSHのバランスが取れれば、PCOSは自力で解消できます。PCOSの治療は、かなり時間が掛かることもありますので、投薬と並行して行うということもできます。
PCOSの投薬治療では、フェマーラという薬が第一選択薬となっていますが、日本ではまだあまり普及していないようです。そのためクロミッドが使用されていますが、高い効果とはいきません。ただクロミッドと鍼灸治療を併用した場合には、高い効果を出すこともあります。
こうした鍼灸治療と、他の治療法の併用に関しても、当院でご相談下さい。あなたの妊活が少しでも早く実を結ぶよう、最適な方法をご提案させて頂きます。
当院は、PCOSの患者さまに、高い臨床効果を発揮している鍼灸治療院です。