慢性子宮内膜炎と不育症克服のための鍼灸治療
【妊娠後に慢性子宮内膜炎が判明】
この女性は、2度目の初期流産を経験した後、不育症の検査をするために、大阪市内の不妊専門クリニックを受診されました。
ところが、不育症と着床障害の検査結果が出る前に、3人目の妊娠が判明しました。その後、クリニックでの検査結果が告げられ、慢性子宮内膜炎に罹っていることが分かったのです。
2人の流産後、予防的に飲んでいたアスピリンと、漢方薬の服用は続けていましたが、慢性子宮内膜炎については、病院では治療ができないとのことでした。
病院で行う慢性子宮内膜炎の治療は、一般的に抗生剤の服用が行われますが、妊娠初期であるため、服薬ができないのです。
途方に暮れた女性でしたが、ご主人が何か手はないかと探している内に、当院のHPに行き当たりました。
【不育症のための鍼灸治療開始】
先ずは流産予防のための鍼灸治療を開始し、子宮の状態が良ければ、慢性子宮内膜炎は、自然治癒も望めることを告げました。
また、慢性子宮内膜炎は、着床障害の原因にはなりますが、流産との関連は不明とのことですので、取り敢えず体調を良くして、不育症対策をすることにしました。
<初診時のご様子と鍼灸治療>
この患者さまは、血液凝固因子である、プロテインCの低下と、HLA抗原陽性があるため、アスピリンと、柴苓湯は、継続して飲んで頂く事にしました。
妊娠前には、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)であると診断されたこともあり、体質的にも、血液凝固異常があることが考えられます。
自覚的には、あまり辛い症状はないようですが、背中や肩の筋肉は固く緊張しており、手足の冷えや自汗(汗が漏れ出る)があります。また、お腹は硬く冷たいご様子でした。
初診時は、妊娠5週目ということでした。
配穴: 次髎 肝兪 三陰交 太谿 関元
最も流産しやすい妊娠7~8週の心拍確認までは、週2回来院して頂くことにしました。予定では、その後週1回に変更し、初期流産がぐっと減る妊娠12週を超えるまでは、週1回ペースを守って頂くことにしました。
未だ心理的な不安感が強く、今までの妊娠とは違って、かなり安定しているとはいえ、安心はできないと仰っていました。
<2診目のご様子と鍼灸治療>
特に、体調不良等は、見られないとのことでした。
配穴:復溜 三陰交 関元 肺兪 心兪 次髎
<3診目のご様子と鍼灸治療>
当院を受診する2日前に、心拍を確認ができたそうです。ただ少し茶色いおりものが出るそうで、まだ不安感が付きまとうそうです。
配穴:復溜 三陰交 次髎 心兪
<4診目のご様子と鍼灸治療>
受診の3日前にクリニックを受診し、心拍を再び確認しました。病院の診察では、非常に順調だと言われたようで、出血も全くない状態を維持できているとのことでした。
配穴:復溜 三陰交 関元に鍉鍼(刺さない鍼) 次髎 心兪 脾兪
<5診目のご様子と鍼灸治療>
体調は順調ですが、たまに茶色いおりものが出ていたそうです。
配穴:照海 復溜 関元 下脘
<6診目のご様子と鍼灸治療>
エコー画像では、2頭身に成長が確認できたそうです。
配穴:復溜 三陰交 腹部散鍼
肺兪 腎兪に施灸
<7診目のご様子と鍼灸治療>
検診で高血圧を指摘されたため、血圧低下のため施術をしました。
配穴:照海 三陰交 列缺 腹部散鍼
施術後に血圧測定し、101/65 脈拍55で正常確認。
<8診目のご様子と鍼灸治療>
病院で、血圧が正常に戻っていると言われたそうです。
施術:腹部散鍼 復溜 照海
施術後の血圧 106/66 脈拍62
<9診目のご様子と鍼灸治療>
本日で妊娠12週目に入ったため、施術の間隔を2週に1回とする予定。
血圧も正常で、一般病院に転院し、母子手帳も頂いたそうです。
配穴:三陰交 公孫 腹部散鍼
【考察】
今回の患者さまは、2度にわたる流産を経験され、不育症検査もしている不妊専門病院に転院されました。
ところが、不育症検査の結果が出る前に3度目の妊娠が発覚し、しかも検査結果で3つの異常が判明しました。
・HLA抗原陽性
・プロテインC低値
・慢性子宮内膜炎
上の二つに関しては、アスピリンと柴苓湯が処方されましたが、慢性子宮内膜炎に関しては、病院でできることがないと言われてしまいました。
また多嚢胞性卵巣症候群のせいで、生理不順もありました。妊娠前の血液検査を見せて頂くと、しっかりLH高値という特徴も出ていました。
またAMHも非常に高く、卵胞の発育にも問題があるはずです。
AMHは高いほど良いと勘違いされますが、AMH自身は、卵胞の発育を妨げる働きがあります。そのため、多嚢胞性卵巣症候群の方では、卵胞が十分に発育せず、排卵も起こりません。
本来は、卵胞の排卵障害がある多嚢胞性卵巣症候群や、着床障害の原因である慢性子宮内膜炎があると、妊娠自体がしにくいはずですが、この患者さまは、比較的妊娠しやすい傾向がありました。
ここが不妊治療の難しいところで、一般的には妊娠が難しいはず状態の人が、いとも簡単に妊娠することもありますし、全く原因が定かではない人でも、妊娠されない人がたくさんいらっしゃいます。
この女性の場合、西洋医学的には、妊娠しにくく流産しやすい状態のはずですが、結果的に、妊娠しやすく流産しやすくなっていました。
では東洋医学的にはどうかというと、脈診では腎虚と言われる状態が強く見られました。腎虚は、不妊症の中でも治りにくい状態で、流産傾向もよく見られます。
「腎は生殖を主る」と東洋医学では考えられており、その腎が弱っている状態は、妊娠や出産でトラブルが起こりやすい状態なのです。
そこで私は、初診の時から継続的に腎経に対してアプローチをしながら、直接的に子宮に近いツボ(次髎・関元など)も使用してきました。
その結果、この患者さまは、つわりすら殆どない状態で、微量の出血はあったものの、無事12週の壁を越えました。
現在の予定では、本人が自信が出るまで施術を続ける予定です。流産を複数回経験すると、妊娠を継続する自信が湧いてこなくなります。
私たちは、そうした患者さまに寄り添い、安心して妊婦生活が送れるように、サポートします。不育症と診断された女性の内、心理的サポートを受けている方は、80%以上の確率で出産に至るというデータもあります。
それに加えて、体調を整える鍼灸治療をすることで、体調面での不安も無くして頂けば、多くの方は、出産に前向きに挑めるようになります。
心身ともにサポートできるのは、鍼灸治療ならではの利点ではないでしょうか。