多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼灸治療は、世界各国で研究が進められています。
多嚢胞性卵巣症候群は、卵胞の成長障害や排卵障害があるというだけではなく、血液凝固障害や胚の質が悪くなるなどの、妊娠に不利な多くの病理変化を伴います。
投薬治療に鍼灸治療を併用すると、そうした妊娠にとって不利な病理変化が改善され、妊娠率の上昇効果が発揮されます。
その妊娠率の上昇が、どのような理由で起こるのかという研究論文です。
【多嚢胞性卵巣症候群と妊娠】
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、卵胞が上手く育たないため、未成熟な卵胞が沢山育つことで、排卵もせず、妊娠しにくい状態になります。
またそれ以外にも、多嚢胞性卵巣症候群の女性では、血液凝固異常と呼ばれる、血液が固まりやすい状態になることが知られています。
血液が凝固しやすいと、着床時期の子宮内膜でも血流が悪くなりやすく、着床しても胎盤形成が上手くできないため、妊娠が継続できません。
そのため超初期流産や、初期流産となる可能性が高く、その結果、多嚢胞性卵巣症候群の女性は妊娠しにくく、妊娠を継続もしにくいということになります。
【多嚢胞性卵巣症候群と子宮内膜】
今回の研究では、多嚢胞性卵巣症候群の子宮内膜にターゲットを絞って調査しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29071945
『クロミフェンを併用した鍼灸治療の妊娠効果』
クロミフェンを使用して、多嚢胞性卵巣症候群のラットモデルに対する鍼灸治療の効果と、インスリン受容体とインスリン様成長因子について調べた。
鍼灸治療群では、クロミフェン単独群に比べて妊娠率が高く、インスリン受容体やインスリン成長因子の発現も多く見られた。
とあります。
多嚢胞性卵巣症候群の女性では、インスリン分泌異常の方が見られます。耐糖能異常とも言われる、この高インスリン血症は、糖尿病の方にもよく見られる現象です。
体質的な問題や生活習慣で耐糖能異常という状態になると、インスリンの効き目が悪いため、血糖値が下がりません。
インスリンが効いていないことを感知した視床下部では、更にインスリンの分泌を膵臓に命令します。
その結果インスリンが血液中に溢れ、高インスリン状態になってしまいます。
高インスリン状態になると、脳下垂体から分泌されるLH(黄体化)というホルモンが過剰に分泌されることが知られています。
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、LHが過剰分泌されることが最大の原因です。その高LHという状態が、高インスリン血症により起こっているのです。
今までは、高LHによる卵胞の成長障害や、その後の排卵障害が不妊の原因とされてきました。
それ以外に考えられる原因の一つが、この研究のように、子宮内膜にもインスリン受容体があり、耐糖能異常が着床障害にも関係しているのではないかということです。
鍼灸治療でインスリン受容体が増えるのなら、鍼灸を受けることによって子宮内膜でのインスリン感受性が高まり、多嚢胞性卵巣症候群により子宮内膜で起こる不妊要素は、解消されるかもしれません。
一般的によく処方されるクロミフェン(クロミッド)は、多嚢胞性卵巣症候群の女性には効果が出ないことも多いのですが、鍼灸治療を併用すれば、妊娠しやすくなるということでしょう。