【原発性月経困難症とは】
原発性月経困難症とは、機能性月経困難症とも言われるもので、明確な原因がないにも関わらず、生理痛が激しいものをいいます。
これに比べて器質性月経困難症とは、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症などの、はっきりした原因がある生理痛をいいます。こちらは続発性とも言われます。
原発性月経困難症は、原因が特に見当たらない生理痛ですが、人によっては特徴的な症状を持つ方もいらっしゃいます。
・イライラなどの精神症状やPMS症状を発する。
・生理に血の固まりが混じる。
・生理の出血が短い
・生理の出血量が多い
一つ目のイライラなどの精神症状は、恐らく女性ホルモンとの関りが深いと思われます。排卵後に働くプロゲステロンは、イライラなどの精神症状を引き起こすことがあり、排卵前から分泌されているエストロゲンとのバランスが乱れると、PMS症状を強く出すと言われています。
生理に血の固まりが混じる人は、血液凝固異常がある人です。生理の時には、肥厚した子宮内膜が剥がれ落ちますが、この時子宮内膜が上手く溶けないと、固まりが混じるようになります。
血の固まりを、子宮の外側に排出するためには、強い子宮の収縮が必要となり、子宮を収縮させるプロスタグランジンという物質が多く分泌されます。
プロスタグランジンは、起炎物質や発痛物質でもありますので、強い痛みが出るのです。
また、生理の血の量が極端に少ない人、或いは多い人も生理痛が強い傾向があります。極端に出血が短い人は、血液が固まりやすい傾向がある人に多く見られます。
生理の時には、肥厚した子宮内膜の内側に伸びた、ラセン動・静脈が内膜と一緒に剥がれるため、血管が破れて出血が起こります。
この出血が、止まりやすいか止まりにくいかは、その人の体質やからだの状態によりますが、極端に多かったり少なかったりする場合には、生理痛が強くなる場合が多いようです。
一般的な生理周期は28日前後ですが、その内月経期と呼ばれる出血のある時期は、長い人で7日以上になります。
出血の時期全てが強い生理痛ではないかもしれませんが、前後の不快期間を合わせると、ひと月の内1/4以上が痛みや不快症状を感じる期間になってしまいます。
そこで、積極的に原発性月経困難症を改善し、快適な毎日を取り戻す方法をご紹介します。
【原発性月経困難症に対する鍼灸治療】
原発性月経困難症に対する鍼灸治療は、幾つかの目的で行います。
1.子宮動脈の血管抵抗を減らすことで血行を促進する。
2.生理痛に関係する知覚神経をブロックすることで鎮痛効果を発揮する。
3.精神的リラックスを生むことで鎮痛効果を発揮する。
このような目的で鍼灸治療を行うことで、原発性月経困難症による生理痛を緩和させ、快適な毎日を送ることができるようになります。
1.子宮動脈の血管抵抗を減らすことで血行を促進する。
鍼灸治療は、子宮動脈の血管抵抗(RI)を減らすことが分かっています。血管抵抗が減ると、血流がスムーズになるため、血流が良くなります。
子宮の血流が良くなると、月経痛が少なくなることが分かっています。私たちは、不妊鍼灸をする中で、子宮や卵巣の血流を改善する鍼灸治療を行ってきましたので、実感としても、患者さまの生理痛がどんどん改善するということを経験しています。
生理痛が無くなると、妊娠しやすくなることも経験的には知っていますが、海外や国内の論文で、それは子宮や卵巣の血管抵抗が下がっているためだと証明されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20932189
(原発性月経困難症に対する三陰交穴、懸鍾穴の鍼灸即時効果について)
こちらの論文は、2010年に中国で発表された論文です。この論文の中では、三陰交と懸鍾という二つのツボを使って、生理痛の鎮痛効果を比べています。
三陰交と懸鍾は、同じような特徴的な位置関係にあるツボです。三陰交は、内くるぶしの3寸上にあります。これは、手の指を揃えて、人差し指から小指の幅に相当します。
懸鍾は、三陰交の反対側にあり、外くるぶしの上3寸にあります。つまり、下腿の内側と外側で、対照的な位置に存在するのです。(厳密にいうと、外くるぶしは内くるぶしよりも下にあるため、微妙に位置は違います)
この三陰交と懸鍾という二つのツボに鍼刺激を加え、子宮動脈の抵抗値と生理痛を計測しました。すると、三陰交では子宮動脈の血管抵抗が低下し、血流増加と共に鎮痛効果が得られたそうです。
一方、懸鍾では血管抵抗に変化は起こらず、生理痛の軽減効果も出なかったそうです。
この実験では幾つかのことが分かります。1つは、
三陰交が生理痛の改善に役立つツボであること、それは血管抵抗の低下による血流改善の可能性があること。
更に、懸鍾には生理痛の改善効果がないこと。またそれは、血管抵抗が変化しなかっことが原因である可能性が高いことです。
そしてもう一つ分かることは、鍼灸治療は、
「どこに鍼を刺しても効くわけではない」ということです。
2.知覚神経を制御することで鎮痛効果を発揮する。
鍼灸治療には、知覚神経を脊髄周辺で制御する働きがあるとされています。通常は、末梢の痛覚受容器で感じた痛みを、知覚神経を通して脊髄後角に伝えます。
この知覚神経には幾つか種類があり、それぞれ違う種類の痛みを脊髄に伝えています。また脊髄に伝えられる情報には、侵害刺激として伝わる痛み刺激と、それを制御しようとする抑制性の情報もあります。
この痛みを伝える神経細胞と、痛みを制御する神経細胞のバランスを整えると、痛み刺激を抑制できると考えられています。
これを、ゲートコントロール説と言います。50年も前に唱えられた説ですが、現在も鍼灸理論の教科書に登場するほど有名な説です。
生理痛においても、こうした脊髄後角という部位で起こる鎮痛作用が働いて、かなり即効性がある鎮痛効果を生みだします。
3.精神的リラックスを生むことで鎮痛効果を発揮する。
鍼灸治療は、末梢神経だけではなく、中枢神経である脳に対しても一定の働きを持っています。鍼灸刺激は、知覚神経を通して脊髄後角から入力されます。
脊髄を上行した鍼灸刺激は、脳の視床という部分に達します。視床は、感覚刺激の中枢として働いており、ここから脳の色々な部分へ刺激が伝わり、脳に一定の作用を及ぼします。
特に鍼灸刺激が影響を及ぼすのは、視床の下側にある視床下部です。視床下部は、生命活動の中枢として働いており、自律神経の中枢でもあります。
そして、情動作用の中枢である扁桃体、記憶に関係する海馬にも影響を及ぼします。扁桃体からは、ストレスに対抗するためのホルモンである、ドーパミンが分泌されています。
鍼灸治療は、扁桃体でのドーパミンの働きに影響を与え、抗ストレス作用を強めると言われています。
そのため、不妊鍼灸においても、不妊治療のストレスを軽減させることで、妊娠率の向上や流産率の低下に働きます。
また、心理的な不安感が低減することで、「また今月も生理痛が来る!」という恐怖感を薄れさせてくれます。
心理的な状態は、痛みに非常に関係が深く、痛みを増強する働きがありますので、鍼灸治療により、負の心理状態を悪循環させないようにするのです。
こうして鍼灸治療は、心理的な安心感を生むことで、原発性月経困難症に対して、対抗できる健全な精神状態を作ることができるのです。