前日に引き続き、学会2日目の様子を何回に分けて、ご紹介します。
1日目の様子→2014年度、鍼灸学会(愛媛県松山市)にて
1.心と遺伝子/筑波大学名誉教授/村上和雄先生
村上先生は、遺伝子研究の大家で、特にイネの遺伝子ゲノムの解読をされ有名です。
また、遺伝子にスイッチがあり、ON,OFFを繰り返しながら、調和を保ち働いていることも解明されています。
過去に、吉本興業と共同研究をされています。その研究内容の紹介がありました。糖尿病患者さんを25人集め、2日間に渡り、以下のような臨床試験を行っています。
1日目は、お弁当を食べた後に、大学の内科教授による、糖尿病のメカニズムについての講義を40分、聞く。
2日目は、お弁当を食べた後に、B&Bの漫才を40分、聞く。
この際に、食前と食後に血糖値を測定する。
結果は、講義に後は血糖値が上昇し、漫才に後は、血糖値が下がったそうです。
講義と漫才の後との血糖値の差は60近くあり、統計学的にも漫才、笑いの効果があることが認められたそうです。
その後、同じような試験を5年間にわたり繰り返し行ったところ、結果全て、漫才の後は、血糖値が下がったそうです。
講義の内容や、漫才師は毎回、異なるようにしています。
先生は、ここから、笑いにより、遺伝子にスイッチが入り、血糖値を下げる働きが起こったのではと推測されています。
また、生命の仕組みは、驚くべほど、不思議なことばかりだそうです。
例えば、大腸菌のコピーは作れても、大腸菌そのものは作れません。
人は、生まれるまでの間に、母胎の中で、38億年分の進化の歴史を全て、辿っていることなどもそうです。
遺伝子的暗号は、人知を超えたもので、自然が書いたしか言えないともありました。
利己的な遺伝子というのは、有名になった話ですが、先生は、利他的な遺伝子もあるのではないかと考えられています。
アメリカのNIHで東西医学の研究がされており、その中で、「祈り」が研究されているそうです。
東海岸から西海岸の患者さんに対し、「祈る」と、どうなるかという臨床研究があったそうです。
西海岸の患者さんを2つのグループに分け、一つのグループの患者さんには、東海岸から祈りをささげる、別のグループには、何もしないという試験です。
当然、西海岸の患者さんには、そのようなことが行われていることは伝えられていません。
結果は、祈られたグループの方が、治療効果が高かったそうです。
先生はこのようなことから、利他的な遺伝子があるのではとされています。
1回だけの試験ですので、何とも言えませんが、非常に興味深い結果だと思います。
アメリカでは、西洋医学による治療だけで、病気を治す方は、全体の50%を切ったそうです。
今回の講義を聴き、私たち鍼灸師が、もっと多くの病気を治すのに、役立てるのではないかと思いました。
2.身体接触によるこころの癒し/桜美林大学教授/山口創先生
山口先生は早稲田大学で、身体心理学という分野を研究されてきた若手の先生です。
からだに触れるという行為が、心身を癒すという、私たち鍼灸師には、興味深いお話でした。
身体心理学では、「からだの末梢の働きが脳と一緒になって心をつくる」と定義されています。
からだとこころは相関しているということです。
以前は、心がからだを変えるとされていましたが、この考えでは、「からだを変えることで、心を変えられる。」となります。
具体的には、皮膚、腸や筋肉は、脳の影響を受けず、独立的に働いているという考え方です。
この中でも、皮膚と脳は関係が深いようです。
これは、発生学的には、外胚葉から皮膚と脳が形成されているからです。
いいかえますと、脳と皮膚とは、同じところから作られたといえるからです。
皮膚をゆっくりと撫ぜることにより、その振動が、皮膚から脳に伝わり、脳内でオキシトシンを分泌させるそうです。
オキシトシンとは、人との絆を強めたり、ストレスを減らし、リラックスさせる効果のあるホルモンです。
皮膚の感覚には鋭いものがあるようです。
皮膚の膜は、外界を知覚することができ、五感の始まりは、皮膚からとありました。
たとえば、「皮膚は音を聞ける」そうです。
耳で聞くことができる範囲を超えた、超音波、低周波音は、皮膚が振動して、私たちは聞き取っているそうです。
また、「光をみられる」ともありました。
紫外線による日焼けは、皮膚が光を感じているから生じるようです。
それ以外にも、皮膚の傷に対して、LEDの光を当てますと、色により、傷の修復速度は異なることが分かっています。
赤>緑>青の順に早くなるそうです。
では、触覚と心にはどういう関係があるのでしょうか?
皮膚に振動を与えますと、皮膚の角質の内側で、カルシウムイオンが振動し、それが脳に伝わります。
この際の振動は、なでる、さするという軽い刺激でないといけないようです。
触角は、神経繊維の中のAβ繊維、C繊維により脳に伝達されます。
Aβ繊維は、知覚機能があり、手のひらや足の裏に多く存在します。
C繊維は、感情喚起機能があり、からだ全身に存在します。
このC繊維にある感情喚起機能とは、「心地よさ」、「気持ち良い」という感覚と関係しています。
すなわち、ゆっくりと優しく触れることで、快楽の感情を引き出し、痛みの緩和にも効果的とありました。
また、感情喚起は触れる速さに依存しているそうです。
触れる速さを、1秒間に1㎝から20㎝の間で、比較試験をしたところ、5cmが、一番強くC繊維に作用したようです。
ここから、1秒間で5cmから10cmに間のスピードで皮膚に触れると、C繊維が興奮し、副交感神経が優位となり、リラックスできるそうです。
鍼治療にも、接触鍼という方法があり、鍼先を皮膚に当て軽くなでるように刺激します。
大阪の鍼灸院天空でも、鍼刺激が苦手な患者さまに、時々使う方法ですが、確かにリラックス効果があります。
また、先生自身のお子さまが夜泣きで困っているときに、ふと思いつき、全身をタオルでぐるぐる巻きにして寝かせると、夜泣きをしなくなったとありました。
これは、圧刺激により、子供が母胎内にいるように感じ、安心したからではないかということでした。
これらの作用に深く関係しているのが、オキシトシンというホルモンです。
オキシトシンは、末梢では、乳汁の分泌や出産時の子宮の収縮に働きかけます。
また、中枢では、扁桃体などの「社会脳」に作用し、信頼を基礎とする人間関係活動に働きかけ、愛情や信頼を形成します。
このオキシトシンが、「触れ合うこと」で、良く出るようになるそうです。
先生によれば、皮膚自体がオキシトシンを形成し、作っているとのことでした。
そして、皮膚への力の有効性は、強い力より、弱い力が高いそうです。
弱い力を与え続けることが、からだの自然治癒力を高め、心とからだを癒すことが分かってきているようです。
鍼灸治療は、まさにその「弱い力」を皮膚に入力しているので、からだと心を癒すことができるのではとありました。