慢性広範囲疼痛症候群への鍼灸治療:患者さまの感想「2年間苦しんだ体中の痛みが意外に早く治りうれしかった。」
慢性広範囲疼痛症候群は聞きなれない病名ですが、近年、増えている病気にうちの一つです。
線維筋痛症という病気がありますが、これとよく似た病気で、この慢性広範囲疼痛症候群から、線維筋痛症に進むといわれています。
からだのあちらこちらに痛みが生じ、痛み止めなどが効きにくく、痛みが長引く病気です。
今回の症例「慢性広範囲疼痛症候群」を患った患者さまへの鍼灸治療の経過と効果について綴ります。
・初回来院までの経過
2年前に急に背中が痛くなった、原因はよく分からない
痛み止めを飲んだ効かない
背中だけでなく、首、腰まで痛みが広がってきた
痛みで夜、眠れないことがある
整形外科に行ったが、原因が分からず、シップだけ出された
心療内科にも行き、線維筋痛症ではと言われ、リリカを出され、飲んだが効かなかった
だんだんと痛みがひどくなり、仕事に支障をきたすようになっている
来院当日の状態は、肩・首、背中の痛みが激しく、憂鬱そうな顔つきでした。
痛みで目が覚めたようで、寝不足で辛い感じでした。
鍼治療は、初めてということでしたので、最初は軽く鍼治療をしていくことを説明、治療に入りました。
慢性広範囲性疼痛症候群への鍼灸治療と施術後の状態について
初回の治療
首から肩、背中にかけて広い範囲で筋肉の緊張がありました。
うつ伏せになってもらい、その中でも特に緊張感、凝り感の強いところ10か所に、直径0.18ミリ、長さ40ミリの鍼を用いて7ミリほど刺し、15分間ほどそのままでいてもらいました。
その後、すべての鍼を一度、抜き、まだ凝り感の強いところ数か所に軽く鍼を刺しました。
鍼治療に恐怖感が強いことを聞いていましたので、背中の緊張感には、接触鍼という方法を用いました。
鍼先で軽く背中全体をひっかくような治療法です。
少しひっかき傷が生じることもありますが、出血はなく、小さいお子様に治療する場合によく用いる手法です。
次に仰向けになってもらい、ストレスから生じた脳の誤作動による痛み過敏を改善できるツボ、ストレスに対応できるようになるツボを手足から4か所選択し、鍼を刺しました。
使用した鍼は直径0.16ミリ、長さ15ミリで、鍼を刺した後、鍼が効くように調整をし、そのまま20分程度、寝てもらいました。
治療後は、肩、首や背中の痛みは取れており、良い感じだということでした。
2回目の治療
前回の後、3,4日はほとんど痛みを感じなく調子が良かったが、一昨日くらいから、少し痛みを感じるようになったありました。
ただ、痛みの程度は、以前に比べるとましで、夜痛みで目が覚めることはなくなったようです。
治療は前回と同じです。
治療後は、初回より、すっきり感が強いと喜んでおられました。
3、4回目の治療
治療の回数が増えるごとに、痛みを感じることが少なくなってきたとありました。
時々、痛みを感じることもあるが、それも気にならない程度になってきたそうです。
睡眠が十分にとれるようになり、気持ちが楽ということでした。
治療は初回と同じです。
5回目の治療
雨の日が1,2日続き、痛みがまたひどくなってきたということでした。
雨というより、気圧の変化がこの病気では関係が深く、悪化することはよくあることと伝えました。
初回の治療に、気圧や温度に対応できるようになるツボを1か所、加えました。
治療後は、痛みがうそのよう消えたと喜んでおられました。
6回目の治療
今回も来院までの間に、雨の日がありましたが、痛みはあまり感じなかったようです。
治療は、5回目と同じです。
7回目の治療
今回の治療までの間に、まったく痛みを感じることもなく、からだの緊張感も感じないということでした。
5回目と同じ治療をしました。
治療後は、爽快感と充実した気持ちになれたそうです。
雨の影響もなくなっていましたので、今回の治療で、終診としました。
施術者の感想
慢性広範囲性疼痛症候群は、名前が長いせいもあり、ほとんど知られていない病気です。
難治性の痛みの病気で、西洋医学でも根本治療に至るまで、時間がかかります。
今回の患者さまは7回の治療、約2ヶ月で治癒に至ったという、患者さまも、治療者もうれしいケースです。
この病気の仲間には、複合性局所疼痛症候群、線維筋痛症があります。
一般に、複合性局所疼痛症候群→複合性局所疼痛症候群→線維筋痛症へと進んでいくとされています。
いずれも原因は、いまだはっきりとはしていません。
過剰なストレスの繰り返しが、長期に渡ることにより、脳がその刺激対応できなくなり、誤作動を起こします。
その結果、本来であれば、痛みを感じない程度の刺激であっても、脳が痛みと判断することによるとされています。
脳をパソコンとしますと、フリーズ状態になったともいえます。
この病気を引き起こしますストレスは主に、痛みです。
痛みをきっかけにこの病気が起こるともいえます。
今回の症例の患者さまも、原因不明の背中の痛みから始まっています。
痛みはストレスの中では、最も強いレベルといえます。
常に痛みがありますと、痛みの信号は脳に伝わり続けます。
繰り返し、痛み信号が伝達されることにより、脳は痛み刺激に対する感度を上げます。
この結果、本来であれば痛みを感じない程度の刺激、例えば、服を着るなどでも、「痛い」と感じるようになるわけです。
慢性広範囲性疼痛や線維筋痛症は、まず、少しでも痛みを軽くする、痛みを感じない時間を作るということが、一番、大切になってきます。
ここに鍼治療が、これらの病気に対して有効な理由があります。
鍼治療は、筋肉の緊張を緩めたり、血流を良くすることで、痛みを改善することを得意にしているからです。
まず、鍼治療で、今、痛いところの痛みを取り除くことにより、、痛みを感じる時間を作ることができます。
筋肉の緊張感や凝り感、痛みを取り除き、リラックスした状態で、脳に働きかける鍼治療を行いますと、脳が正しい判断ができるようになります。
脳に働きかける鍼治療だけでも、効果はありますが、患者さまが痛みを感じながら、治療を受けることになりますので、若干、効果が落ちることが多いです。
大阪・心斎橋の鍼灸院 天空では、この種の病気に対して、まず、緊張感、痛みを取り除いてから、脳に働きかける鍼治療をする理由はここにあります。
今回の症例では、約2ヶ月で改善しましたが、理由はよく分かりません。
考えられることでは、患者さまが意欲的であったこと、痛み以外のストレスはほとんどなかったことや、薬は効かなかったが、鍼治療は効くと確信され来院されたことなどがあります。
また、鍼刺激に対するからだの反応もよく、少しの刺激で、緩んでいくのがはっきりとわかるタイプの方でもありました。
痛み以外にもストレスがありますと、そのストレスが、痛みを引き起こしますので、そちらの治療する必要性があり、時間がかかることが多いです。
東洋医学からの視点
古代の医学書には、「経筋」という流れが記載さています。
現代医学の解剖学と異なりますが、筋肉の流れのことです。
この流れが悪くなると痛みが生じるとあります。
これを「通ぜずば痛む」としています。
今回の症例は、この状態でした。
そして、「通じると痛み止む」とあります。
筋肉の緊張感、凝り感を取り除くことで、「経筋」の流れが良くなり、痛みが改善したわけです。
東洋医学では、ストレスと「肝」は相関しており、「肝」と筋肉も相関しています。
すなわち、ストレスがかかると、筋肉の緊張や凝りが生じるというわけです。
この「肝」を中心とするツボの流れは、頭に繋がっています。
筋肉を緩める治療の後に、「肝」のツボの流れを中心に、治療することにより、痛みストレスに対応できるだけでなく、脳の働きに作用することができるわけです。
このように、鍼治療では、一つのツボに、様々な働きがあります。
どのツボを選択し、鍼を刺し、それをどう働かせるかによって、治療が変わってきます。