片頭痛からくる原因不明のめまいを中心とした肩こり・腰痛への鍼灸治療:患者さまの感想「痛みが取れ、めまいもおこらなくなりました」
今回の症例は片頭痛が起こるとめまいが起き、吐き気も生じて辛いという患者さまの例です。頭痛外来や耳鼻科での検査で異常はなく、良性発作性頭位めまいと診断されたそうです。
良性発作性頭位めまいは、ストレスなどがかかり頭を急に動かしたときに、平衡感覚を決める耳の中にある耳石と呼ばれる細かい石のようなものが正しく移動してくれないことにより生じます。
良性発作性頭位めまいのきっかけが、片頭痛とは少し考えにくいです。実際、患者さま自身も納得されていませんでした。
少し珍しい例ですが、このような形で苦しんでいる方のために、今回の症例をご紹介します。
〇来院されるまでの経過
・真っ直ぐに座っていると、肩が凝り、痛みもある
・パソコン作業中に何かチカチカしたものを感じ、目の痛みを感じ、痛み止めを飲んだが効果がなかった
・肩甲骨の周りから首にかけて痛む、パソコン作業により痛みがひどくなる
・吐き気がるときは痛み止めが効かないが、それ以外では楽になる
・20代のころから、休みの日になると頭痛がよく起こる
・頭の上のほうが痛くなり、重たい感じで、全身がだるく、せっかくの休みなのにと思う
・ひどいときは、頭痛→めまい→吐き気となり、薬が効かない
・数年前にぎっくり腰をしてから腰が常に、重だるい感じ
・時々、触れるだけで痛くなることもある
初診時の考え
今回の患者さまは、片頭痛に緊張型頭痛を伴ったケースになります。
このケースは、混合型頭痛、変容性頭痛などと呼ばれており、近年、増加傾向にあります。
もともと片頭痛がある患者さまが、パソコン作業やストレスから、首肩の筋肉の緊張、交感神経の過緊張により、緊張型頭痛を引き起こしたことにより生じます。
休日になると頭痛発作が起こる、吐き気を伴うなどは、片頭痛の特徴的な症状です。
痛み止めが効いたり、効かなかったりするのは、片頭痛発作の時には効かず、それ以外の緊張型頭痛の時には効果があったということになります。
片頭痛には、普通の痛み止めは効かず、トリプタン系の薬しか効果がありません。
肩甲骨の周りから首にかけて痛むのは、そのあたりの筋肉の緊張があります。
首の筋肉の緊張は、頭へ行く血流を悪化させます。また、持続される作業は交感神経を興奮させます。
交感神経は血管にも入り込んでいますので、興奮することにより血流が悪くなります。
頭へ行く血液が少なくなることにより、脳が酸欠状態になり、痛みが生じます。
また、血液が少なくなりますと頭の筋肉が硬くなっていき、頭を締め付けるようになり痛みが生じます。
これが緊張型頭痛を引き起こします。
これらのことから、混合型頭痛と考えました。
問題は、混合型頭痛とめまいとの関係でした。
以前の症例でも、同じような事例がありましたが、そちらは原因も、どのようなめまいかも説明がつきませんでした。
ただ、ストレスが引き金になり、一過性に脳へ行く血流が少なり、目まがい起こったのではと、考えることができました。
今回の症例では、耳鼻科で、良性発作性頭位めまいと診断されています。
平衡感覚をつくる耳石と片頭痛の相関性がよくわからず、患者さまも納得されていませんでした。
片頭痛はさまざまな症状を引き起こすとされています。
吐き気やおう吐は、代表的なものですが、それ以外にも、めまいがあること最近、分かってきました。
片頭痛関連性めまいと呼ばれています。正式には、「前庭性片頭痛」の症状としてのめまいとされています。
片頭痛を引き起こす物質が耳の平衡感覚をコントロールする器官にも作用することがあるようです。
この時に平衡感覚が誤った情報を脳に伝え、脳がバランス異常があると勘違いを起こし、めまいが生じるとされています。
脳の勘違いによるものですので、耳鼻科で検査をしても異常が見つからず、良性発作性頭位めまいと診断されたようです。
これらのことにより、前庭性片頭痛と緊張型頭痛との混合型頭痛によるものと考えることができました。
肩凝りと腰痛に関しましては、緊張型頭痛と同じで、パソコン作業による同じ姿勢が続き、肩や腰の筋肉にも緊張が生じ、重怠い感じが生じたものと考えることができます。
まとめますと、もともと片頭痛があり、そこにストレスや筋緊張により、緊張型頭痛と肩凝り、腰痛が絡んできたと判断し、鍼灸治療を進めていきました。
頭痛への鍼治療と変化の記録
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初回の鍼治療
うつ伏せの状態で、肩首に左右4か所ずつ、腰に左右2か所ずつ、直径0.20ミリ、長さ50ミリの鍼を、約15ミリ刺し、そのまま15分ほど寝てもらいました。
その後すべての鍼を抜き、凝り感が残っているところに、ゆっくりと鍼を刺し、コリを取り除きました。
次に仰向けの状態で、脳の片頭痛を引き起こしている物質を出している箇所に作用し、正常な状態にするツボを足から6ヶ所選択しました。
そのうち3か所には、直径0.18ミリ、長さ30ミリの鍼を使用し、少し深めに10ミリ程度刺し、残りの3か所には、直径0.20ミリ、長さ15ミリの鍼を使用しました。
鍼を刺した後、神経や血流に作用する操作を行い、20分ほど、寝てもらいました。
その間、1度、からだの状態を確認し、鍼の操作を加え、より効果が出るようにしました。
鍼治療の後は、肩こり感、腰痛はすっかりと消えていました。
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2回目の鍼治療
初回の治療の後、肩こり感や腰痛は改善されていましたが、片頭痛発作は生じ、めまいが起きたようです。
めまいは、まだ続いているとのことでした。
うつ伏せの状態での鍼治療派、前回のツボに、背骨を矯正することを目的としたツボを2か所加えました。
肩や腰へ刺した鍼は、前回と同じです。背骨の近くには、直径0.18ミリ、長さ30ミリの鍼を使用しました。
仰向けで治療は前回と異なり、手や足からツボを5か所選択しました。
使用した鍼は、直径0.18ミリ、長さ30ミリと直径0.20ミリ、長さ15ミリです。
鍼治療の後は、めまいが消えており、からだ全体がすっきりした感じとのことでした。
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3回目の鍼治療
前回の鍼治療から約1か月後の来院でした。
この間、片頭痛発作もなく、めまいも全く起きなかったということでした。また、肩こり感、腰痛も感じなくなったということでした。
鍼治療は、2回目と同じよう方法をおこないました。
鍼治療の後、からだ全体が軽くなり、まったく異常を感じないとありましたので、今回で、終了としました。
担当鍼灸師の感想
今回の患者さまは、いわゆる片頭痛持ちでした。
そこにパソコン作業からくる筋肉の緊張や血流の悪化により、腰痛、肩こり感が生じ、更に、緊張型頭痛が重なってきていました。
また、片頭痛発作からめまいが生じてくるという、厄介な状態になっていました。
このめまいが、良性発作性頭位めまいと診断され、患者さまご自身も納得ができずにおられました。
片頭痛に関しましては、未だ、その原因もはっきりとせず、そこから派生する症状も、さまざまなものがあります。
近年、片頭痛から生じるめまいがあることが分かってきました。前庭性片頭痛と呼ばれています。
現在のところ、片頭痛の原因は、以下のように考えられています。
ストレスなどから、耳の近くにある三叉神経から片頭痛を引き起こすホルモンが過剰に生じる
↓
このホルモンが三叉神経を栄養している血管に炎症引き起こし、痛みが生じる
↓
片頭痛発作が起こる
片頭痛発作を引き起こすホルモンは、三叉神経血管だけでなく、前庭と呼ばれる三半規管などの平衡感覚に関係する器官にも、過剰に作用することがあるようです。
このとき、平衡感が乱れ、その情報が脳に伝わります。
脳は、バランスに異常があると勘違いをし、めまいが生じてきます。
ある意味、脳が勘違いを起こし、めまいが生じたものといえます。
そのため、耳鼻科での検査で、異常が認められなかったといえます。
このように、ある器官に異常を引き起こすホルモンが、その近くにある別の器官にも影響を及ぼし、症状が複雑になることがよくあります。
代表的な例としまして、女性の更年期障害と自律神経失調症などがあります。
片頭痛というホルモン異常と交感神経の過緊張から、今回の患者さまの症状が生じていますので、その点を改善できるように鍼治療を行いました。
初回の鍼治療で、肩こり感や腰痛は改善しましたが、片頭痛発作とめまいは変化がありませんでした。
少し深めに10ミリ程度刺し、脳への血流の改善をはかりましたが、ホルモン分泌を正常化することはできなかったようです。
そこで、2回目は、手のツボも使用し、ホルモン分泌への働きかけを強くしました。
手と足のツボの選択も、脳と関係の深いツボに変更しました。
また、自律神経の働きの改善を強くするために、背骨にあるツボを使用しました。
背骨の中を自律神経が走っているからです。
背骨の真ん中あたりから腰にかけて、歪みが見られましたので、それを矯正する感じで、鍼治療をしました。
片頭痛はストレスの影響を強く受けていますので、自律神経の働きが正常にしますと、ストレスを軽く感じ、片頭痛発作の改善につながるからです。
この鍼治療に変更しましたことが良い結果を生み、2回目の鍼治療以降は、片頭痛発作やめまいが改善されたようです。
今回の症例では、3回という少ない鍼治療で、片頭痛が改善されました。
この理由は、正直なところよく分かりません。たまたま、上手くはまったという感じです。
鍼治療を長年していますと、このようなうれしい結果にあうことがよくあります。
鍼治療だけでなく、漢方薬でも、ゆっくりと改善していくというイメージがあると思いますが、決してそうではありません。
今回の症例のように、「鋭く切れる」ことはよくあります。
肩凝りや腰痛に対する鍼治療が、効果的であったことも、この改善につながっていると考えられます。
肩・首の筋肉の緊張が緩みますと、交感神経の緊張も緩み、血管への締め付けもなくなり、血流が改善します。
脳への血流が良くなりますと、ホルモンの分泌も正しくなり、いろいろな症状を引き起こすことがなくなります。
片頭痛に緊張型頭痛が伴うような頭痛では、肩や首の筋緊張を緩めることは大切なことになります。
今回の鍼治療の作用
1.
肩こり・腰痛
パソコン作業のような同じ姿勢を保つ仕事は、腰や肩、首の筋肉の緊張を引き起こします。
筋肉には、自律神経に片方である交感神経が入り込んでいます。
筋肉が硬くなりますと、この交感神経を締め付けます。
締め付けられた交感神経は、興奮し、緊張します。
また、交感神経は血管も支配しています。
交感神経が興奮しますと、血管を締め付け、血液の流れが悪くなります。
血流の悪化により、筋肉を栄養でき無いだけでなく酸欠状態となり、筋肉がさらに硬くなり、痛みが生じるという悪循環が生じます。
腰痛や肩こり、緊張型頭痛の原因は、このようなところにあります。
硬くなった筋肉に鍼を際しますと、「小さい傷」が生じます。
からだはこの「小さい傷」を修復しようとしますので、その部分に血液が多く送り込まれます。
酸素が豊富な血液を得た筋肉は、栄養され、「回復」し、緩んでいきます。
また、豊富な血液によりガス交換などが行われ、硬くなった筋肉に多くあった痛み物質などが、取り除かれます。
鍼刺激により、凝り感や痛みが改善できるのは、このようなことからによります。
今回の患者さまの場合は、同じ姿勢、繰り返し作業から肩こりや、腰痛が生じていたようで、凝り感のある筋肉を緩める鍼治療の方法が有効的でした。
2.
頭痛からくるめまい
前回ご紹介しました症例では、緊張型頭痛からくるめまいでした。
脳の近くの筋肉の緊張が激しく、脳への血流が悪化し、脳が一時的に酸欠となり、めまいが生じたものでした。
今回の症例では、前回と異なり、片頭痛と緊張型頭痛が重なった混合型頭痛でした。
そして、この片頭痛も前庭性片頭痛と呼ばれるものでした。
片頭痛を引き起こすホルモンの分泌異常を正常化する必要がありました。
体性自律系反射という考え方を鍼治療に応用し、重点的に行いました。
手や足のツボに鍼刺激を加えますと、その刺激が神経を介在して脊椎を上向し、脳の視床下部や扁桃体に伝わります。
そこには自律神経の「コントロールタワー」や、内因性モルヒネ、アドレナリン、セロトニンなどの物質を分泌する場所でもあります。
鍼刺激をそこに強く伝えますと、脳の働きを正常化することができると言われています。
今回の症例では、そこに働きかけること中心に行い、片頭痛を引き起こすホルモン物質の分泌を正常化することを目指しました。
これにより、片頭痛発作が生じなくなり、めまいも改善されたと考えられrます。
肩こり・腰痛も片頭痛も改善のポイントは、血液の流れを良くすることにありました。
筋肉のコリは血流を悪化させますから、コリを取り除く必要はあります。
コリを取り除くことが、片頭痛の改善にもつながるというわけです。
このように、肩こり・腰痛と片頭痛を「別のもの」として、治療をするのではなく、成り立ちから「同じものと」して、治療していくことが大切な考え方になります。
この考え方を、「病の一元化」と呼んでおり、大阪、心斎橋の鍼灸院 天空が大切にしている考え方です。