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妊娠悪阻(つわり)の鍼灸治療

2018年7月22日7:45 AM カテゴリー:妊娠中の体調管理

妊娠中のつわりは、多くの妊婦さんに出る症状です。軽い吐き気程度から、全く食事が摂れなくなる人まで、かなり個人差が大きいのも特徴です。

様々な原因を挙げる人がいますが、決定的な原因は分かっていません。ただ、つわりが出やすい傾向はあるようで、次のような方は出やすい傾向があります。

 

・妊娠や出産に対する恐怖感が強い人。

・元々車酔いをしやすい人。

・めまいや立ち眩み等の自律神経失調症状がある方。

・ストレスが過剰な方。

・胃腸が弱い方。

・母親がつわりが強かった方。

・周囲につわりが強い人がいた方。

・過去につわりを経験した方。

 

こうした原因を幾つかに分けるとすると、心理的な要因、胃腸の弱さ、遺伝的な要因などがあります。免疫反応や胎児に対する異物反応だという方もいますが、これも決定的だとは思えません。

 

つわり(妊娠悪阻)の鍼灸治療

 

つわりは妊娠悪阻(にんしんおそ)とも言われ、大抵は妊娠12週程度までで治まります。妊娠12週は、胎盤がほぼ完成して、流産の危険性がグッと少なくなる時期でもあります。

安定期は16週と言われますが、実際には12週を過ぎると、約90%以上は無事に出産に至ります。

この時期を過ぎるとつわりが減ることを思うと、心理的な不安感や、妊娠に対する「ある種のからだの慣れ」も関係しているのかもしれません。

つわりの鍼灸治療としては、幾つかの目的を持って治療をしていきます。

 

1.脾胃の弱りや冷えを解消する。

2.自律神経を整える。

3.心理的な不安感を無くす。

4.冷えのぼせを無くす。

5.胸を開く(寛胸作用)

 

この中でも、寛胸(かんきょう)と呼ばれる東洋医学独特の治療は、最も即効性があります。寛胸とは、文字通り胸を寛げることです。

吐き気で詰まった喉元や胸元をひらいて、呼吸を楽にする作用があります。この代表的なツボが、内関(ないかん)と呼ばれるツボです。


内関は、車酔いなどにも使用されるツボですが、強く刺激し過ぎると、逆に体調を乱すこともありますので、注意が必要です。

この内関を軽く刺激するだけでも、軽いつわりであれば、かなり効果的に働きます。私たちが施術する場合には、内関以外のツボを組み合わせて使用します。

 

実際のつわり(妊娠悪阻)に対する鍼灸治療

 

大阪市在住 30代女性

 

つわりのため産婦人科を受診していましたが、解決策がなく、来院時には、食事量がかなり減っている状態でした。

来院時は妊娠8週でしたが、寝起きに強い吐き気があり、昼間は少し軽くなりますが、夕方ごろから再び強い吐き気がしていました。

元々冷え性や肩こりがあり、自律神経もあまり強くないと自覚されていました。ネットでつわりを検索したところ、鍼灸治療が効果的なことを知り来院されました。

 

<鍼灸治療>

 

内関

長さ15mm 太さ0.18mmの使い捨て鍼を使用し、2~3mm刺入

足三里

長さ40mm 太さ0.18mmの使い捨て鍼を使用し、約2cm刺入

腹部に接触鍼(刺さない鍼)

腹部の張りがある場所を、刺さない鍼で緩めていく。約3~4か所ですっかり緩みました。

 

初回の鍼灸治療は、これだけです。鍼を2か所刺し、腹部を刺さない鍼で緩めただけで、その時出ていた吐き気は殆どなくなりました。

軽いつわりであれば、こうした施術を数回すればつわりは殆ど無くなります。重症の場合には、もう少し鍼を増やすこともありますが、強刺激はあまり必要ありません。

 

過去最強のつわり患者

 

私が経験した中でも、最も強いつわりで来院されたAさんは、忘れることができない思い出です。Aさんは、お母様の電話で初診予約をお取りになりました。

その頃、既に電話で喋ることも出来ないほどに衰弱しており、電車移動も車移動も酔ってしまい出来ない状態でした。

初診時、Aさんは、お母様が押す、車いすに乗って来院されました。マスクをして車いすに乗った姿は、とても妊婦とは思えないほどに痩せており、一抹の不安を感じるほどのお姿でした。

 

お話を伺うと、病院の入退院を繰り返しながら点滴を続けているにも関わらず、つわりが軽減しなかったそうです。

その当時のAさんは、唯一食べることができるものが、イチゴ蒸しパンとイチゴミルクのみで、それ以外のものは、全く口にすることができないと仰っていました。

つわりのために仕事を休職されていましたが、日々やせ細っていくとのことでした。


治療としては、脾胃の調子を整える基本的な治療をしましたが、治療頻度は少し多めの週2回としました。最初の2~3回は車いすで来院されましたが、その後自力で通院できるようになりました。

徐々にご主人が作った雑炊が食べられるようになり、長期に渡ったつわりも無くなり、無事に仕事に復帰されました。

ところがその数か月後、電話でご予約を頂き、腰痛で来院されました。つわりの時以来、初めての来院時、その姿を見て再び衝撃を受けました。


私の前にいるのは、私が知るAさんではありませんでした。

「あの…凄くリバウンドしていませんか?」

「これが本来の体重なんです。つわりで激やせしてたので。」

恐らくですが、つわりで10kg近く痩せていたようで、全く別人となった本来のAさんは、電車で元気に通勤するようになっていました。

腰痛の鍼灸治療を終え、また元気になったAさんは、産後も何度かご来院して頂きました。このAさんが通院していた産婦人科からは、その後も何人かのつわりの患者さまを、ご紹介して頂きました。

それにしても、姿形がすっかり変わるほどのつわりは、後にも先にもAさんだけです。

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