多嚢性卵巣症候群による不妊症への鍼灸治療「お薬を中止して、タイミング療法で、元気な赤ちゃんを授かりました」
「生理不順がひどく、婦人科で多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害と言われ、排卵誘発剤で不妊治療をしているが結果が出ない。できれば、お薬を飲まないで妊娠したい。」
これは、多嚢胞性卵巣症候群による不妊症で、鍼灸治療を受けに来られた患者さんの言葉です。
多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣から周期的に、上手く排卵ができません。
主には、生理不順や無排卵、無月経を引き起こし、更に不妊の原因になることもあります。
多嚢胞性卵巣症候群は、主に、ホルモン異常や糖代謝の異常からも起こるとされています。
ただ、ストレスから発症するケースも多くあると言われています。
今回のケースでは、仕事のストレスから多嚢胞性卵巣症候群となり、不妊に悩まれ、西洋医学的治療で結果が出ず、妊活鍼灸のために来院されました。
また、病院での不妊治療により、更に体調不良を引き起こしたケースでもあります。
○今までの経過
・学生時代からの生理不順
・婦人科で薬を処方され、服用すると生理が定期的にある
・学生時代は、面倒に思い放置していた
・社会人になってからも、飲んだり、飲まなかったりを繰り返していた
・結婚後、基礎体温を付けるようになった
・基礎体温は乱れている状態が続いている
・子どもが欲しいと思い、婦人科で検査を受けると、排卵障害を指摘された
・お薬を飲む不妊治療を受けている
・ストレスも原因かと思い、仕事をやめた
・仕事を辞めてからは、毎日、不妊治療のことを考えていた
・1年以上、経過しても妊娠できない
・生理を周期的に起こすために、薬を飲んでいるが、できれば、飲みたくない
・体外受精などへのステップアップをするかどうか迷っていた
・できるだけ、自然妊娠をしたいと思っている
・からだを良くしようと、いろいろな健康法を試したが、結果が出なかった
・鍼灸で不妊治療ができること知り、来院
・便秘が酷い
・胃腸が弱く直ぐに胃もたれになる
・肩こり、首のこり、頭痛や腰痛もある
・鍼治療は初めて
不妊症への鍼灸治療と施術後の状態について
初診時には、既に生理不順の薬を飲むことを止めておられ、生理がいつ来るか、分からない状態でした。
当然、排卵も、いつ来るのか分かりませんので、タイミングを上手く取ることができません。
タイミングを取ることが、子供を作るための作業のような感じになっているご様子でした。
また、薬を飲むと生理は来るのですが、最近は、どんどん生理の量が、少なくなったと感じられています。
始めて鍼灸治療のせいか、お話をおうかがいしながらも、緊張感がビンビンと伝わってきます。
初対面の人と、お話しするのが、苦手なご様子です。
お話をおうかがいしている内に、少し落ち着いてこられましたが、初めての鍼灸に、興味半分、怖さ半分という感じでした。
・初回の鍼灸治療
まず、最初は、特に表面的な症状が強かった、首肩の凝りの解消を目的に鍼治療をしました。
首の両側、肩の周辺、両方の肩甲骨の間など、5か所に鍼を1~2㎝ほど刺し、そのまますぐに抜きました。
腰にも、1ヶ所、鍼を1~2㎝ほど刺し、10分間ほど、そのままにしておきました。
使用した鍼は、長さ40mm、太さ0.16mmです。
次に、仰向けになって頂き、お腹に2カ所、刺さずに触れる程度の鍼をし、その後、2カ所に鍼を20mmほど刺して、10分間そのままにしました。
使用した鍼は、最初と同じサイズになります。
鍼治療後は、最も自覚症状が強かった肩こりや頭痛は、感じないとのことでした。
お腹の固さの変化を確認しましたところ、
「そう言われて初めてウエストサイズの変化が分かりました!
最初怖かったんですが、実際に受けてみると痛みはありませんでした。」
と言われました。
私に指摘されるまで、お腹の固さなどは、気が付かなかったそうです。
お腹全体が、太鼓のように張っていたのですが、それがからだの悪さを現すとは思っておれませんでした。
ただの幼児体型だと、思っていたとのことでした。
お腹の異常な張りは、他の不妊症でも、よくみられる症状の一つです。
具体的には、お腹に極端に強い張りがあるか、極端に弾力が無く、だらっとしているかのどちらかの場合が多いです。
この状態を、鍼灸治療により改善させ、適度な弾力があるお腹に、変わるようにします。
これにより、子宮や卵巣への血流が良くなり、卵の質を上げる、生理周期を改善することが期待できます。
その後、週1回の頻度で、来院して頂くようにお勧めしました。
・2回目の鍼治療
1回目の治療後は、眠気が生じ帰りの電車内で、居眠りをされたそうです。
「心地よい眠り」は、治療効果を高めます。
また、治療後に、強い眠気がある場合は、からだに疲れが溜まっていることがよくあります。
2回目の治療も基本的には1回目と同じです。
患者さんから
「前回もそうですが、まずウエストの変化に驚きました。肩こりや首こりは自覚がありましたが、おなかが出ているのは生まれ付きだと思っていました。調子が悪いから出ていたんですね。」という感想が、治療後にありました。
・3、4回目の鍼治療
治療は、前回と同様です。
肩こりや首こりが楽になり、仕事をしても気にならなくなったそうです。
お腹の張りがなくなると、便秘も解消されたそうで、薬を飲まなくても、お通じがあるようになったそうです。
・5回目の鍼治療
「前回の治療後に生理が来ました。自力で来たのは久し振りで、嬉しいです。」とありました。
治療の内容は、前回と同様です。
肩こりが軽くなっているので、今回から、仰向けで治療を開始して、うつ伏せで終わるようにしています。
また、基礎体温表もストレスにならない程度に、今回から付けて頂いくようにしました。
・6~10回目の鍼治療
当院に、通い始めてから2回目の生理が、約35日で来ました。
病院に行っていないので厳密には分かりませんが、基礎体温表では2層に分かれています。
また、生理中の痛みや、だるさなども、今のところ、気にならないそうです。
治療の内容に、あまり変わりませんが、その都度、気になるところは、重点的に鍼治療をしています。
「少し肩がこる」とか、「背中が疲れる」と言った部位の症状は、確実に取っていっています。
また、生理周期がはっきりしてきて、体調も良くなってきました。
患者さんと相談して、これからは、排卵誘発剤を飲まずタイミング法で、妊娠を目指すことにしました。
・11~19回目の鍼治療
鍼治療は、6~10回目と、同じです。
生理は、35日周期で安定していました。
19回目の鍼治療の後に、生理が、少し遅れていたので検査薬で調べたところ、妊娠が判明しました。
・20回目の鍼治療
妊娠判明と同時に、通院されていませんでしたが、軽いつわりがあり心配され、来院されました。
つわりの鍼治療でしたが、妊娠初期のため、強い刺激は良くなく、軽い鍼治療をしました。
手首と足首にそれぞれ1ヶ所ずつ、つわりを改善できるツボに鍼を10㎜ほど刺しました。
使用した鍼は、長さ15mm、太さ0.10mmの極細鍼です。
そのままで、15分ほど、寝て頂きました。
その後、お腹や、背中に皮膚に触れる程度の鍼を数か所に刺し、治療を終了しました。
治療後は、胸のつかえが取れて楽になり、少しお腹が空いたとのことでした。
出産後、無事、元気な赤ちゃんが生まれたとご報告を頂きました。
・担当施術者の感想
多嚢胞性卵巣症候群は比較的よく見られる排卵障害です。
不妊症の原因として、病院では、排卵誘発剤の投薬治療が行われていますが、排卵している周期もあるとされています。
何人か出産された女性が、婦人科検診で、多嚢胞性卵巣症候群を指摘されることがありますので、絶対的な不妊の原因とはいえません。
ただ、多嚢胞性卵巣症候群の方には、強いストレスがかかっていることが多くあり、それにより排卵障害を引き起こすことがよくあります。
鍼灸治療により、ストレスを改善し、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害を解消して妊娠に導くことができます。
今回の患者さんは、仕事を頑張りすぎ、知らない内にストレス過多になっていました。
ストレスにより、からだに影響が及んでいることに、ご自身は気付いておられませんでした。
たまたま、目にしたネット記事により、「ストレスで生理不順が起こる」ことを知り、ストレスの危険性を理解されたことは、ある意味では、ラッキーだったと言えるかもしれません。
ストレスに気がつかず、そのままにしておきますと、悪循環に陥り、症状の悪化が進む可能性があるからです。
多嚢胞性卵胞症候群の方は、お腹の張りを訴えることが多くあります。
この患者さんの場合、お腹の張りや、ガスが溜まりウエストが太くなっていることも、当たり前の出来事として、受け入れられていました。
鍼灸治療を受けたことにより、ウエストが細くなり、そこで、初めて、ストレスが自分のからだに、影響を与えていたことを知ることができました。
今回の症例では、直接、お腹や腰に鍼灸治療をしています。
これは、胃腸の働きを促進し、消化吸収を助け、便秘などを解消します。
また、子宮や卵巣への血液循環を促進することにより、卵の質を上げ、子宮内膜の増殖を促します。
更に、手や足の知覚的に敏感なツボを刺激することで、脳への刺激を効果的に行います。
手足の知覚神経から入った刺激は、脊髄を上り、脳にまで達します。
脳に到達した鍼刺激は、脳の自律神経や生理周期と関係している視床下部や、ストレスに対応する扁桃体に影響を与えます。
それにより、自律神経の乱れや生理不順の改善、ホルモンバンスの調整ができます。
また、ストレスに対して適応できる力を上げることができます。
今回の症例では、このようなことにより、強いストレスによる多嚢胞性卵巣症候群が引き起こした排卵障害を改善し、タイミング療法において、妊娠し、元気な赤ちゃんを出産することができました。
・東洋医学的な視点
東洋医学的に、妊娠や出産と関係しているとされているのは、「肝」、「脾」、そして「腎」です。
この中でも「肝」は、俗に言う「やる気」と関係があると、古代の医師たちは考えていました。
抑うつや、気を遣う、締め切りに間に合わせるなどが続きますと、負担を感じ、興奮し、めまい、動悸、頭痛などの症状を引き起こし、やる気がなくなります。
また、血液をプールリングする作用もあります。
どの臓器や、どの部位に、どれくらいの血液を送り込むかを決定しているとしています。
これは、現代医学でも、小腸で栄養分を吸収した血液は、一端、肝臓に送り込まれ、血液量を調節しているとしていますので、同じような作用の説明になります。
このように、東洋医学的な「肝」は、精神的なことと、血液と密接な関係にあります。
それ故に、女性であるあなたが、妊娠・出産するに当たり、非常に大切な臓器と言えます。
また、ツボを結んだ流れがあると、古代の医師たちは考えていました。
このツボの流れは、臓腑を中心にしています。
肝を中心としたツボの流れは、子宮や卵巣などの生殖器やお腹、乳房などを通っています。
強いストレスが持続的のかかりますと、「肝」の働きが落ち込み、やる気がなくなります。
「やる気」とは、頑張るためのエネルギーですので、このエネルギーが減少しますと、気というエネルギーの流れも、当然、悪くなっていきます。
その結果、気の滞りが生じます。
今回の患者さんの場合は、頑張りすぎにより、この気の滞りが、肝のツボの流れであるお腹で生じていました。
お腹でエネルギーが溜まった状態になり、それが、ガスが溜まったように、感じられたわけです。
そこで、「肝」の働きを改善するような鍼治療をし、気の滞りを無くし、流れがよくなりました。
それにより、お腹の張りが解消して、ウエストも急激に細くなったわけです。
また、今回の患者さんは、生理不順が学生時代からと、長期に渡っていました。
そこで、「肝」の不具合が、生殖をコントロールし、ホルモン調節をするとされている「腎」や、消化吸収と栄養物を運ぶことを支配している「脾」にも影響を与えていました。
今回の患者さんに不妊の症状だけでなく、酷い便秘や、胃腸の弱りがあったのは、このことによります。
このようなからだの状態で、お薬を飲み、機能的に働くように強制しますと、働く力が無い状態で、無理に動かされるので、からだは弱っていきます。
お薬を飲み始めてから、経血量が減っていったのは、このせいと考えられます。
もちろん、からだが元気であれば、お薬による治療は効果的です。
今回の患者さんのように、からだの働きや、からだを動かすための栄養素が少ない状態で、お薬を飲み、無理に動かすと、それが原因で、不妊になる可能性もあります。
そこで、患者さんの意向により、お薬を飲むことを中止して、鍼治療を進めたところ、からだ全体の調子がよくなり、生理も順調になりました。
今回の患者さんの場合は、持続された強いストレスにより、「肝」の高ぶりはありましたが、あまりにも長期に渡っており、弱くもなってきていました。
そして、「肝」の弱りが、「腎、脾」の働きも弱くしていました。
「肝、腎、脾」と言う、妊娠・出産と関係が深い臓器の働きを強めるように、慎重に鍼治療を進めていきました。
それと同時に、肩こり・腰痛、頭痛などの症状も、しっかりと解消するように持って行きました。
肩こり・腰痛、頭痛などの症状が、ツボの流れを悪くして、その結果、気の滞りを引き起こすことはよくあるからです。
このように、患者さんのからだの状態を慎重に見極めながら、鍼治療を進め、からだ本来の働きを取り戻すことにより、妊娠力が上がり、卵の質もよくなり、無事、妊娠・出産に至りました。
最後に、来院されたつわりも、「肝」と「脾」のアンバランスが原因でしたので、その調整をして、改善できました。
今回の症例のように、人間が本来持っている「生命力」が落ちていることで、不妊症になっているケースは、比較的多くあります。
そして、西洋医学は、この状態の不妊治療を不得意にしており、鍼灸治療は得意にしている分野と言えます。