大阪府の患者様:「痛みが酷く、会社をたびたび休むので退職を迫られていたが、鍼灸治療で元気に働けるようになりました。」
今回の症例は、線維筋痛症なり、日常生活もままならない女性のケースです。
線維筋痛症は、少しずつ知られるようになってきましたが、まだまだ、医療者の間でも理解されていない病気です。
この病気の痛みが、いわゆる神経や血管の支配する場所に起こるだけでなく、全く関係の無い場所に起こり、その痛む場所の関連性もないからと言えます。
今回の症例の患者様は、幸い最初のかかったクリニックの先生が疑問を抱き、専門医の紹介を受けそこでの治療を受けられていました。
また、専門医からの診断書もあり勤務先の会社の理解もありましたが、欠勤があまりにも多くなり、会社からこのままの状態では、退職してもらうことになると言われ、なんとかならないかと、当院に鍼灸治療を受けに来られました。
今回の症例では、鍼灸治療により、欠勤することがほとんど無くなり、また、日常生活も充実するようになった経過を綴ります。
○今までの経過
・3年前に突然、背中に強い痛みを感じた
・痛みと同時に吐き気を感じる
・背中の痛みから手足のしびれが起きるようになった
・生理痛が酷く、陣痛のような痛みが起き、背骨が割れそうに感じる
・婦人科を受診し、子宮腺筋症を疑われたが、検査で否定された
・通院中のクリニックから線維筋痛症の専門医を紹介され、線維筋痛症と診断された
・リリカを処方され服薬
・背中の痛みはリリカにより改善されていた
・同居していた家族に問題が生じ、ストレスが溜まっていった
・子供の頃のトラウマがまた上がってきた
・新しく家を購入し、同居家族から離れ、少し落ちてきた
・転職をしたが、それとともに症状が再発した
・現場での仕事で、音がすごく、分刻みの作業、同僚の気性が荒い
・母からの虐待を受け、流産した
・父が他界し支えを失い、また、その後、親族の他界が続いた
・主人の転職により経済的な問題がストレスになっている
・生き方を改善していきたい
・現在は、また症状が酷くなり、会社をよく休むので退職の話が出てきた
・現在の主な症状は頭痛、生理痛、腰痛、冷えたり、雨の日は特に痛む
・肩こりから頭痛になる
・痛みが強いときは、全く動けない
・鍼治療は、初めて
線維筋痛症への鍼灸治療と施術後の状態について
初回の鍼灸治療
鍼治療が初めてでしたので、最初は、ごく軽く浅い鍼治療を中心に行いました。
首肩、腰の筋肉の緊張が著しい感じでしたので、まず、そこを緩めるような鍼治療をしました。
うつ伏せになってもらい首肩、腰の緊張が強いツボに鍼を5㎜程度刺し、そのままの状態で、約15分間、寝てもらいました。
その後、全ての鍼を抜き、まだ、緊張感が強く残っている場所に、丁寧に鍼を刺し、その緊張感を緩めていきました。
使用した鍼は、直径0.16ミリ、長さ30ミリです。
その後、仰向けになってもらい、トラウマやストレスの解消、自律神経のバランスを整えること、痛み物質の消失が期待できるツボを6ヶ所、選択し鍼を3㎜程度刺しました。
鍼を刺した後に、脳への血流が改善されることや、神経のバランスが整うように、鍼に操作を加えました。
約25分間、そのまま寝てもらい、途中、一度、鍼が良く効くように調整に入りました。
使用した鍼は、直径0.14ミリ、長さ15ミリです。
身体のバンスが整い、全身の血流が改善され、特に、脳に多く血液が流れたことを感覚的に確認した後に、全ての鍼を抜きました。
治療後は肩こり、腰痛や頭痛は全く感じなく、すっきりとした感じとありました。
2回目の鍼灸治療
1週間後に来院され、この1週間は鈍痛を感じたが、全身状態はよくなり、仕事を休まずに行けたとありました。
鍼灸治療は初回と同じです。
3~5回目の鍼灸治療
鍼治療の回数を重ねることにより、多少の「上がり下がり」はあるものの、痛みを感じることが少なくなり、ほぼ休まずに出勤できるようになってこられてきました。
鍼灸治療は前回と同じです。
6回目の鍼灸治療
前回までは週1回の治療でしたが、改善がみられてきたので、ご本人の希望もあり、2週間に1回の治療に変更しました。
通院しているクリニックでの点滴も中止されるほど、ご本人は意欲的でいたが、やはり、2週間の間隔はきつく、会社を1回休まれております。
今回の患者さんは、費用のこともあり、どうしても2週間に1回で、お願いしたいとありましたので、2週間持つような鍼灸治療を今回から加えています。
7,8回目の鍼灸治療
前回から、鍼灸治療を変更したことが功を奏し、痛みを感じることが少なくなってきたとありました。
ただ、線維筋痛症と異なる、筋肉的な痛みを仕事により感じているので、その治療も希望されました。
前回の鍼灸治療に、筋肉へのアプローチを加えました。
治療後は、筋肉的な痛みは感じないとのことでした。
9回目の鍼灸治療
気圧が下がり、気温が急激に下がり、体調が悪化したと報告がありました。
また、仕事も忙しく、腰痛、ふとともも痛みが酷いとのことでした。
ただ、仕事は休まずになんとか行けているので、ありがたいと仰っていました。
鍼灸治療は前回と同じです。
10、11回目の鍼灸治療
寒暖の差がはげしい日が続き、風邪を引き、それがトリガーになり腰痛と太ももの痛みが激しくなり、1回休んだとありました。
寒さは痛みを引き起こすが、以前ほど、強くなく、その点は助かっているとのことでした。
鍼灸治療は前回と同じです。
12~15回目の鍼灸治療
症状は、全体に落ち着きを見せていましたが、急に寒くなることにより痛みが増悪する様子でした。
今回ら、腰を中心に、温めることを目的としたお灸を加えました。
このお灸は、「温灸」と呼ばれ、直接、肌に焼く、お灸ではありませんので、跡は残りません。
鍼治療は前回と同じです。
17,18回目の鍼灸治療
痛みを感じることは、ほぼ無くなってきたとありました。
ただ、お子様の進路のことで家族がもめる、給料が思ったほど増えないなどのストレスから、痛みを感じることもあったそうです。
これによる痛みもすぐに消え、その後、同様のケースが起きた際には、痛みを感じなかったそうです。
今回の患者さんからは、鍼治療による効果を実感している、「先生には、本当に感謝しています。」とありました。
鍼灸治療は前回と同じです。
19回目の鍼灸治療
身体の痛みを感じることは、無くなり、仕事も元気に行けているとありました。
鍼灸治療は前回と同じです。
経過をおうかがいし、体調もよく、ストレスや寒さがトリガーになることもないようでしたので、今回で、一端、終了としました。
その後、半年後に1,2回来院されましたが、体調管理的な意味で、痛みは無いとのことでした。
また、偶然、お会いしたときに、お話をおうかがいしますと、会社も休まず、家族にも問題が無く、順調に生活ができるようになり、先生の鍼治療を受けられたことが、非常にうれしいと仰っていました。
施術者の感想
線維筋痛症は、激しい痛みを伴い、その痛みに耐えきれず、死にたいと思うこともある病気です。
今回の患者さんの症状はそこまで、激しくはありませんでした。
ただ、痛みで動けず会社を休むことが多く、これ以上、欠勤が続くと、退職してもらうこともあり得ると言う勧告があり、相当、プレッシャーが強くなり、それがまた、痛みを引き起こしていました。
晩秋の頃に来られ、年内に仕事を休まなくてもよい状態にして欲しい、様々な問題があるので最初の1ヶ月程度しか週に1回の通院ができない、それ以後は、2週間に1回の通院になる、色々と条件をつけるが、是非、この条件で治して欲しいとありました。
正直、なかなか難しい注文ではありましたが、詳しい事情から無理も無いと判断し、なんとか、「注文」に応えられるようにしますとご返事しました。
痛みとストレスは、関係が深く、お互いに影響し合っています。
痛みがストレスとなり、抑うつ症や、場合によってはうつ病になることもあります。
逆に、ストレスが痛みを引き起こし、せっかく症状が安定してきたのに、ストレスにより痛みが再発することもよくあります。
痛みを引き起こすストレスは、人間関係だけで無く、今回の患者さんのように気温差や気圧の変化などの天候も、大きく関与しますので、なかなかやっかいです。
今回の患者さんは、このストレスによる影響が、かなり強い傾向にありましたので、痛みを取るだけでなく、ストレス対応力を上げることも、治療の目的としています。
線維筋痛症などの、難治性の慢性疼痛と呼ばれる病気は、脳において痛みを感じる閾値が下がる「痛み過敏」が起きているとされています。
脳には、体温を調整する温度中枢、空腹感・満腹感を調整する満腹中枢など中枢がありますが、「痛み中枢」は有りません。
痛み刺激は、神経から伝達され脳に伝わりますが、感覚を司る場所以外にも伝わり、脳全体で「痛み」を感じ取ります。
脳全体ですので、当然、情動を支配している扁桃体も影響を受けます。
この扁桃体から、自律神経やホルモンを支配している視床下部に情報が伝えられます。
痛みが続くことにより、自律神経、ホルモンのバランスが崩れ、様々な症状を引き起こし、場合によってうつ病になることが有るのは、このことによります。
今回の患者さんは、まさにこのような状態に有りました。
痛みを取るだけでなく、ストレス耐性を目指したのは、正に、このようなことによります。
鍼治療には、痛みを取ることと、ストレス対応力を上げることが、同時にできます。
これは、手や足にツボに鍼を刺しますと、その刺激が、神経を通じて脊髄を駆け上がり、脳の扁桃体、視床下部に伝わります。
その際に、ドーパミン、βエンドルフィン、セロトニンなどのホルモンが放出されます。
これらのホルモンには、鎮痛作用、やる気、心地よさを引き出す力があります。
そして、鍼刺激を繰り返すことで、からだがその状態を覚え、自動的に対応できるようになってきます。
これは、痛みがなく、ストレスを感じない状態は、からだにとっても、「楽」だからです。
あなたが「楽」したいと思うように、からだの細胞、脳も「楽」したいと思っています。
鍼刺激により、そのような状態を選択するようになります。
そして、この状態は、鍼刺激により引き出されていますが、あなた自身の「選択」の結果ですので、再発する可能性が低くなります。
これは鍼灸治療の特徴でもあります。
今回の患者さんも、上手くこの状態を引き出すことができ、改善に至りました。
また、それだけでなく、家族間に問題が多くありましたが、それも、同時に解消に向かっていきました。
鍼灸治療は、刺激療法ですので、あまり間隔が開くと効果を期待できません。
特に、今回のような慢性的な病気はそうです。
正直、2週間に1回で、かつ、年内に仕事を休まなくてもよい状態にと言われたときは、悩みましたが、今回の患者さんの熱意もあり、引き受け、うまく「答え」が出て、安心しました。
症状が完全になくなるまでは、19回ほど鍼灸治療を受けて頂いていますが、「年内にという注文」には、お応えはできましたので、よかったのではないかと思っています。
2週間に1回より、1週間に1回の方が、効果的なのは事実ですが、今回の患者さんの場合は、患者さんご自身もその理由を示され、その条件で改善できるように努力してくださいました。
今回のケースは、患者さんの努力と鍼灸治療の高い治療効果の賜物の結果であると言えます。
東洋医学からの視点
東洋医学では、痛みはツボの流れが滞ることにより起こるとしています。
そして、ツボの流れが正しく流れていれば、痛まないとしています。
これを古代医の医学書に「通ぜざれば痛む、通じれば痛まない」と記載しています。
ツボの流れには、大きくは12本あり、左右対称にあります。
では、なぜ、ツボの流れが滞るのでしょうか?
一つには「瘀血(おけつ)」という状態があります。
この瘀血を引き起こす原因は、いろいろあります。
例えば、持続されたストレスは、そのストレスに対応する臓器のを興奮させるというのが、東洋医学の考えです。
興奮した臓器は、その臓器を中心としたツボの流れも、興奮させます。
その結果、左右対称にある興奮したツボの流れは、それに挟まれた臓器を締め付けます。
締め付けられた臓器は、当然、働きが悪くなります。
そして、その周囲の血流も悪化します。
血流が悪化した状態が続きますと、血管の浸透圧に変化が起き、ごくわずかですが出血します。
この出血した血液が、回収され頭、そのままになりますと、そこで化学変化が生じ、痛み物質が作られ、痛みを感じます。
このような状態を古代の医師たちは、「瘀血」と呼んでいました。
すなわち、ストレスから痛みが生じることを、理解していたのです。
また、寒さは、交換神経を興奮させます。
この交感神経は血管に巻き付いていますので、交感神経の興奮により血管は締め付けられ、血流が悪化します。
そして、上のような状態になり、瘀血が生じ、痛みになります。
他にも、瘀血が生じる理由はありますが、今回の症例では、上の2つのパターンから瘀血が生じていたようです。
今回の患者さんの場合は、瘀血が生じている場所を特定して、それを取り除くことと、ストレス対応の臓器に働きの乱れを改善して、また、ストレスを感じても動じないようにする必要がありました。
それには、痛む場所への鍼治療と、手や足のツボを用いて興奮している臓器への鍼治療とをする必要があります。
この両者を同時にすることにより、「今の痛み」の改善と「将来の痛み」を防ぐことができます。
このように鍼灸治療は、あなたの痛みを改善するだけでなく、あなたの将来も明るくすることができる治療法でもあります。