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不眠に悩む現代日本人:症例

2017年11月10日8:44 AM カテゴリー:症例

不眠症に対する鍼灸治療の実例

不眠に悩まれている方は、年々、増加傾向にあります。

前回までに、シリーズで不眠症に関する解説をしました。また、なぜ鍼灸治療が不眠症に効果があるのかの説明もしました。

今回は、不眠症に関する鍼灸治療に実例を紹介します。

どのような感じで、不眠症が鍼灸治療で改善するのか、そのイメージを掴んでいただければと思います。

20代 女性 大阪府在住 「不眠所への鍼灸治療」

患者さまの声「不眠への不安感がなくなり、毎日が楽しい」

 

1年間ほど、資格試験の勉強で、夜型の生活に慣れ、その後、社会人となり、寝付けなくなり、不眠症になった例になります。

一見、概日リズム障害による不眠症と思われますが、別の要因で不眠症を引き起こしていたという症例です。

半年以上、不眠に悩まれていました。

大阪 心斎橋の鍼灸院 天空に来院する前に、心療内科、漢方薬などの治療を受けられていましたが、どれも効果がなく、最後の砦として来られました。

来院までの経過

・半年前から不眠症

・2日おきにしか眠ることができない

・一睡もできな日もある

・資格勉強中は夜遅くまで起き、その後、朝、早く起きなければならなくなり、睡眠のリズムが狂った感じ

・ストレスが溜まりやすい生活をしている

・メンタルは弱い

・心療内科を受診し、服薬したが、逆に眠れない日が多くなった

・薬の副作用も強かった

・漢方も試したが効かなかった

・眠ると息苦しさを感じることもある

・頭がボーと良くなる

・朝起きると下痢をよくする

・下痢が続いた後に便秘になる

・目をつぶっているが、夜中にトイレに2回は行く

・肩こりがある

・会社がしんどい

・不眠からドライアイ、胃もたれ、不快感、トイレが近くなった

・時に、ぐっすりと眠れることもある

・鍼治療は初めて

初診時の考え

資格試験の勉強で1年間ほど、午前2時ごろまで勉強していたようで、その間に完全に夜型になったようです。

その後、社会人となり、朝、早く起きる必要があり、うまくリズムが戻らず、不眠症になったようです。

睡眠と覚醒の時間がずれていくという、典型的な概日リズム障害の不眠症を、最初は考えました。

ただ、睡眠薬に効果がなく、いわゆる自律神経症状も訴えていることから、単に、概日リズムだけでなく、精神的な問題も関与しているとも思いました。

精神定期な面については、SSRIという抗うつ薬が処方されていましたが、ご本人曰く、効果がなく、副作用が強く、すぐに中止になったということですので、抑うつ傾向は考えませんでした。

しかしながら、不眠からドライアイ、胃もたれ、トイレ近くなるなどの症状や、下痢・便秘があることから、自律神経失調症も併発している可能性を考えました。

ストレスが溜まりやすい生活しておられ、メンタルも弱いということから、交感神経の過緊張が続いてたようです。

交感神経が興奮したままになりますと、からだの筋肉も緊張し、心拍数も上がります。

この状態は、いわゆる興奮状態ですので、寝付けなくなります。寝付くには、リッラクスした状態が必要だからです。

今回の症例では、概日リズム障害だけでなく、ストレスからくる交感神経過緊張も要因としあったようです。

そして、資格試験、その後の新社会人という環境の変化を考えますと、不眠症の要因は、交感神経の興奮が続いたことによるものと考えられます。

夜型の生活に、交感神経の興奮により、徐々に寝付けない状態を引き起こしていたようです。

そして、社会人になり、朝早く起きるという日常生活がトリガーとなり、本格的な不眠症となったようです。

単に、1年間ほどの夜型生活からの概日リズム障害による不眠症ですと、睡眠薬を服用しながら、朝、早く無理にでも起きるという生活を続けますと、意外に早く、元の戻ります。

睡眠薬が効かないのは、自律神経の乱れによる不眠だからと推定できます。

神経の興奮による、信号伝達の異常を改善するのに良い薬は、今のところあまりないからです。

また、抗うつ薬も効かず、副作用も強かったことから、うつ病の初期の不眠でもないと判断できます。

資格試験勉強や新社会人という環境に変化によるストレスによる、交感神経過緊張により寝付けないと考えますと、いろいろ説明がつくようになります。

交感神経の興奮が続きますと、バランスを取るために、今度は、副交感神経の働きが強くなります。

朝方の下痢は、バランスを取ろうとして副交感神経が活発になったことによると考えられます。

胃や腸などの内臓は、副交感神経の支配にあり、この神経が興奮すると腸の働きが活発になり、下痢を引き起こします。

ドライアイア、胃もたれ、トイレが近い、肩こりなどは、交感神経の興奮により引き起こされます。

これらのことにより、今回の症例では、ストレスや環境の変化により、自律神経失調症となり、そこに概日リズム障害が加わり、不眠症を引き起こした考えました。

不眠症への鍼治療と変化の記録

 

初回の鍼治療

肩こり感を強く訴えていたので、まず、うつ伏せの状態で、首、肩の周りに、鍼を刺し、そのまま15分程度、寝てもらいました。

使用した鍼は。直径0.18ミリ、長さ40ミリです。

その鍼を7ミリ程度の深さまで刺しました。

その後、すべての鍼を抜き、コリが残っている部分に、丁寧に鍼を刺しました。

次に、仰向けになってもらい、自律神経を改善できるツボや、脳の血流を改善できるツボから、反応が強いツボを6か所選択し、鍼を刺しました。

使用した鍼は、直径0.16ミリ、長さ15ミリです。

鍼を刺した後に、交感神経が緩み、脳血流量も増加するような操作を鍼に加え、そのまま、20分程度、寝てもらいました。

鍼治療後は、肩こり感は消え、からだ全体に元気が戻ってきた感じとありました。

 

2回目の鍼治療

前回の鍼治療の後、23時から4時ごろまで、ぐっすりと眠れたとありました。

肩こり感も軽くなり、リュックを背負って通勤しているが、こり感が出なかったとありました。

鍼治療は、初回とほぼ同じです。

ただ、首のあたりの背骨付近に緊張感が見られましたので、その場所への鍼治療を追加しました。

この場所は、頑張りすぎるとよく緊張する場所です。

ご本人に、確認しますと、今週は忙しく、かなりハードに頑張ったとのことでした。

また、若干、呼吸が浅い様子でしたので、その点を改善する鍼治療も加えています。

使用した鍼は、前回と同じです。

鍼治療に後は、すっきりとし感じで、充実しているとありました。

 

3回目の鍼治療

睡眠の質が良化したとありました。

鍼治療は、初回の治療に、呼吸の改善を目的とした治療を加えています。

鍼治療の後は、息がしやすく、身体が軽いとありました。

 

4~6回目の鍼治療

前回までの鍼治療で、出なくなっていた、ドライアイ、下痢、胃痛などが再発したとありました。

睡眠は、陽寝れる時と寝れない時があるとのことでした。

鍼治療は、初回の治療に、胃腸の調整とドライアイ改善を目的としたツボを加えています。

鍼治療後は、お腹が軽く、空腹感が出てきた、目の乾燥も気にならないとありました。

 

7回目の鍼治療

寝れない日は、週に1回になり、6時間程度の睡眠ができるようなったが、たまに寝すぎ、逆にしんどくなることがるとのことでした。

胃腸症状は改善し、ドライアイ、肩こり感も感じないとありました。

鍼治療は、前回と同じです。

鍼治療後は、身体が軽く、いい感じとありました。

 

8~11回目の鍼治療

忙しい日が続き、ストレスを感じ、不眠症になったと日と、同じような感覚の日もあるとのことでした。

ストレスからか、腹痛、下痢か便秘、もやもや感があり、仕事が辛くなってきたとありました。

今回の症例においては、やはり、自律神経失調症の傾向が強いことが、この間にもはっきりとしました。

対策として、不眠より自律神経の乱れを改善する鍼治療に重点を置きました。

前回の鍼治療に、お腹への鍼治療と、背中全体への鍼治療を加えました。

お腹に直接、鍼を刺すことにより、お腹への血流が改善され、胃腸に伸びている自律神経の働きを、改善することを目的としました。

また、背中には、直接鍼を刺すのではなく、軽くさするような鍼治療をしています。

これにより、緊張している交感神経全体が緩み、自律神経の乱れを改善できます。

鍼治療後は、もやもや感は消え、からだ全体が、温かくなったとありました。

 

12~15回目の鍼治療

60%程度、改善したような感じがするとありました。

睡眠の質も良くなり、熟睡感があり、良い時は、治ったような気がするとありました。

鍼治療は、前回と同じです。

鍼治療後は、息も軽く、前向き感が出てくるとありました。

 

16回目の鍼治療

徐々に改善を感じ、友人宅に泊まり、環境が変わっても寝ることができた。

時に、寝つきが悪いこともあるが、気にならなくなり、いつの間にか、熟睡しているとありました。

鍼治療は、前回と同じです。

鍼治療後は、生き生きとした感じなり、気持ちが良いとありました。

新たに資格を取ろうかと思っていると、前向き感の発言も出るようになり、今回で、一旦、終了としました。

担当鍼灸師の感想

 

始めのお話をうかがった時点では、典型的な概日リズム障害による不眠症と思いましたが、詳しくお話をおうかがいするに従い、別の原因を疑うようになりました。

その点では、簡単に判断するのではなく、やはり、しっかりとお話をおうかがいすることが、大切であることを改めて実感しました。

また、昨今、問診をパターン化し、聞くべき内容を決め、その内容をすべて暗記し、流れるように、問診をするようにと指導する方が、増えています。

そのようなことでは、聞き漏らしや、類型化した判断しかできず、誤診に繋がりやすいことを、教えていただいた症例でもあります。

 

自律神経系には、交感神経系と副交感神経系があります。

交感神経は、以下のようなときに強く働きます。

・活動している時

・緊張している時

・ストレスがある時

 

副交感神経は、以下のようなときに強く働きます。

・休息している時

・リラックスしている時

・身体を回復する時

 

そして、この2つの神経が、バランスを取り活動していれば、健康な状態が保てます。

このバランスが崩れますと、さまざまな身体の症状を引き起こします。

緊張、活動、ストレスにも、良いもの、悪いものがあります。

例えば、友人と談笑する、テニスなどの運動をすることは、良いものになります。

これらのことにより、交感神経は、強く働きますが、バランスを崩すことが少ないといえます。

逆に、締め切りのタイトな仕事が続く、上司に叱責を受けるなどは、悪い刺激になります。

これらのことが続きますと、交感神経の過緊張状態となり、自律神経のバランスが崩れ、さまざまな症状が出現します。

今回の症例では、不眠を主訴としていますが、元来、メンタルが弱いと自覚されている上に、過剰なストレスがかかり、交感神経の過緊張が持続する状態が続いていました。

この状態が続きますと、生命の維持を目的として副交感神経の活動も活発になります。

これにより、交感神経と副交感神経の興奮状態が、交互に起きる、あるいは、同時に起きることがあります。

今回の症例では、不眠、肩こりと胃もたれ、下痢などの交感神経と副交感神経の興奮による症状が同時に起きています。

睡眠薬、抗うつ剤、漢方薬が効果がなかったのは、両方の神経の過緊張を同時に引き起こしていたからといえます。

お薬は、基本的に「1対1対応」ですので、同時に2面を改善することは難しいからです。

両方の過緊張を同時に、改善するのは難しい面があります。

このような場合には、どちらの過緊張を先に改善するべきか、あるいは同時に改善するべきかを、注意深く観察しながら判断する必要性があります。

今回の症例で、鍼治療の方針や刺激の程度の変更がよくあったのは、このことによります。

ただ、患者さまの訴えをよく聴き、身体の状態を注意深く観察し、慎重に判断した上で、鍼治療を進めていけば、今回のような複雑な自律神経失調症をベースとした概日リズム障害の不眠症の改善も可能なわけです。

鍼治療の特性に、鍼刺激より、興奮している状態を抑制に、抑制されている状態を活性にすることができます。

これを鍼の刺激の2面性と呼んでいます。

今回は、この鍼刺激の2面性の特徴がよく現れた結果、比較的早く、不眠から解放されることになったといえます。

また、ご本人自身がおっしゃっていましたようにメンタルの弱い面も解消でき、次のスッテプへ進もうという前向き感も、得ることができました。

これは、鍼治療により、脳血流の改善が進み、脳の扁桃体から前向き物質が放出されたからと考えられます。

動物を使った基礎実験では、鍼刺激より前向き物質が増えることが明らかにされていますので、その可能性はあると思えます。

今回の症例は、鍼治療には、患者さんの悩みを解決するだけでなく、プラスアルファもある治療といえることを、実感できた症例でした。

今回の鍼治療の作用

今回の症例は、自律神経失調症に合併した概日リズム障害の不眠症といえます。

概日リズム障害の不眠は、脳の松果体というところからは放出されるメラトニンの不足が原因となります。

メラトニンは、概日リズムや睡眠の質と深い関係があります。

朝、起床後に太陽光を浴びることにより、脳の松果体まで、光信号が送りこまれ、松果体からメラトニンが放出されます。

メラトニンは、目覚めた後、14,5時間後に、再び分泌され、眠気を誘います。

今回の症例のように、夜遅くまで資格試験の勉強をしていますと、このメラトニンを放出する周期が崩れ、不眠を引き起こします。

また、松果体は、やる気を出し、冷静にする働きがあるセロトニンも作っています。

このセロトニンには、眠気をを誘導する働きもあります。

セロトニンはストレスを強く感じますと、その量が減る傾向にあります。

セロトニンが不足しますと、眠気が強くならずに、不眠となるだけでなく、不安感、抑うつ傾向などの自律神経失調症も引き起こします。

今回の症例では、このメラトニン、セロトニンの両方のホルモンが不足していたようです。

手や足のツボに鍼治療をしますと、脳血流量が増え、視床下部や、下垂体、扁桃体の働きが改善されます。

今回の鍼治療により、脳のこれらの部位が活性かされ、セロトニン、メラトニンの分泌量が増え、不眠の解消に繋がりました。

また、視床下部は自律神経の司令塔でもありますので、その働きが正常になりますと、不安感、胃もたれ、下痢などの自律神経枝症状の改善にもつながります。

このように概日リズム障害と自律神経失調症を同時に治療できるのが、鍼治療の特徴といえます。

また、緊張感やストレスからくる肩こりは、単純な使い過ぎによる肩こりではありません。

筋疲労と交感神経の興奮から筋自体の緊張やこり、筋肉への血流悪化によるものです。

この患者さまの場合は、まさにこのパターンでした。

このような場合は、筋肉の緊張を取るためにこり感の強い場所に、軽い刺激の鍼治療と、自律神経のバランスを整え、交感神経の興奮を抑える鍼治療が必要になります。

今回の症例で、肩や首に鍼を刺したのは、直接、凝っている場所を緩めるためです。

鍼を刺し、10分程度そのままにして置くことで、鍼という異物に身体は反応し、その場所の血流が改善され、筋肉の緊張が緩み、こり感が消失します。

その後、手や足のツボに鍼を刺すことで、神経の刺激が脳に伝達され、交感神経の興奮を抑制するように働きます。

この時に、同時に脳の血流も改善されていますので、メラトニンやセロトニンを増やすことも生じています。

そして、これらの鍼治療を繰り返すことにより、ストレスがかかっても脳に安定して血液が流れるようになります。

また、ストレス対応の力が上がり、少々のストレスでは、動じなくなるようになっていきます。

自律神経のバランスも安定し、脳からも前向き物質、やる気物質が放出されやすくなり、楽しい生活が過ごせるようになっていきます。

ただ、このようなことは、一直線上では起こりません。

今回の症例でもありましたように、多少の「波」は必ずあります。

そして、安定するまでの時間が必要です。

この患者さまも、途中、不安になられたこともありましたが、継続して鍼治療を受けられたことにより、不眠から解放されるだけでなく、元気に毎日を過ごせるようになりました。

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