今回ご紹介する患者さまは、臨床所見からすると非常に難しいと予想された症例でした。
ご夫婦ともに来院して頂きましたが、お二人ともそれぞれ不妊傾向があり、ステップアップをどうするかと悩んでいる最中でもありました。
大阪市在住 30代前半のご夫婦 機能性不妊(未妊)
【初回時の女性患者さまのご様子】
女性側の血液検査には、複数の矢印マーク↓↑が付いていました。ざっと見てみても、
・コレステロール ↓
・ヘモグロビン ↓
・カリウム ↓
・TSH(甲状腺ホルモン)↑
・PLT ↑
・MCV ↓
・MCH ↓
・MCHC ↓
・AMH 2.13 ng/ml(40代レベル)
かなり矢印マークの多い血液検査に加えて、卵巣予備機能検査(AMH)では40代の検査数値だと言われたそうで、かなり神経質になっているご様子でした。
さらに子宮筋腫も4~5個あるそうですが、切除はせずに妊活をしてこられました。今までは、タイミング法で1年間様子を見てきましたが、来院時には、人工受精へのステップアップが決まっていました。
生理の出血量も最近では少なく、自覚的にも疲れや体力的な弱りを感じているとのことでした。
それ以外にも冷え性や肩こり、便秘などを訴えていらっしゃいました。
【初回時の男性患者さまのご様子】
男性患者さまは、仕事が忙しく、疲労気味で片頭痛持ちでもありました。肩こりも酷く、ここ10年で30kgも太ってしまい、体調が良いとは言えない状態でした。
病院での検査では、精子の量が少なく、体力的にもタイミングが取りづらい状態でした。
ただ妊活には非常に協力的で、来院もお二人でして頂けました。
【施術方針の決定】
ご主人が仕事で多忙なことと、既にご夫婦で体外受精も視野に入れていることから、3カ月間は体調管理のために鍼灸治療をさせて頂き、その後方針を再決定することにしました。
そのため、女性を中心にしながら治療をさせて頂き、人工授精をする前には、ご主人に鍼灸治療を受けて頂くようにしました、
【経過】
<初回時>
女性は、血液検査の数値、自覚症状、東洋医学的診察の全てにおいて、非常に弱りが強い状態だと思われました。
そのため、まずは体力の回復の為に鍼灸治療と栄養指導をさせて頂きました。
また冷え症状が強く、内臓機能の弱りも見られたことから、自律神経を調節し、血液循環を改善して内臓器を活性化する治療を始めました。
初回治療後、手足の冷えが改善され、肩こりも普段とは違い軽いと仰っていました。
週1回の頻度で、ご来院頂くことにしました。
<2回目:初回から4日後>
施術方針は変わりませんが、少し早いタイミングでご来院頂きました。
できるだけ早く体調を回復するために、早いタイミングで来て頂けたとのことでした。
前回よりも、鍼数を少なくし、よりピンポイントで弱っている臓器を狙いました。
鍼数は10本です。
<3回目:2診目から4日後>
生理2日目ですが、出血の質と量に改善の兆しがあります。出血の量は、極端に少なくても多くてもいけません。
また固まりが多く混じるようでは、子宮の状況は良くありません。
施術は同様ですが、しっかりと内膜を排出するように、子宮の運動性を高める施術をしました。
鍼数は7本です。
<4回目>
人工受精当日でしたが、男性の精子が少なすぎて、かなりショックを受けたご様子でした。
そこで男性にも急遽頻度を増やして頂くことにしました。元々、片頭痛なども持っているため、仕事の合間に抜けて来ていただくことにしました。
<5~8回目>
女性の5~8回目の間に、男性にも2回の鍼灸治療ができました。お仕事が忙しかったせいもあり、かなり血液循環が悪く、頭に血が上っているような状態でした。
下半身の血流を増して、精巣周辺の血液循環が上手く流れるように、全身施術をさせて頂きました。鍼数は7本です。
<9回目>
人工受精当日に、来院して頂きました。子宮の活動性を高め、子宮内膜の免疫を整えることで、受精や着床を助ける施術をさせて頂きました。
来院するなり、男性の精子がかなり改善されていたことを喜んでいらっしゃいました。
わずか2回の鍼灸治療でしたが、効果はてき面だったようです。
かなりの手ごたえを感じていらっしゃいました。
「私は人工受精では妊娠無理ですか?」
と聞かれましたので、
「全然大丈夫だと思いますよ。」
とお答えしました。
鍼数は6本です。
<10回目>
高温期が続いており、前回周期の生理予定日を越えているとのことでした。
前回の鍼灸治療後に、通院している病院の体外受精説明会に参加されたとのことでした。
少しでも早く妊娠するために、ステップアップもそろそろかと考えていると仰っていました。
その一方で、
「でも今回、いけてる気がするんです!」
とも仰っていました。
鍼数は6本です。
翌週に、お電話があり、
「胎嚢確認できました!!」
と元気にご報告いただきました。
まだご主人にはお話されていないそうで、真っ先にご報告いただいたようでした。
【考察】
今回のご夫婦は、女性側に子宮筋腫、低AMH、貧血、甲状腺機能低下などがあり、男性側には乏精子症があるという、ご夫婦ともに不妊傾向が見られたご夫婦でした。
ところが、非常に熱心にご来院頂き、私たちの話を理解した上で、改善できることに関しては、積極的に取り組んでい頂きました。
その結果、女性は10回、男性が3回という施術回数で妊娠に至りました。
体外受精の説明会に参加し、そろそろ体外受精にステップアップをしようかというタイミングでの妊娠でした。
もし体調を回復することなく体外受精に進んでいたら、何度も体外受精を繰り返しながら疲弊していたと思われる症例です。
体外受精で排卵誘発をしても、血液検査の数値に力がある方は、採卵数が少なく、成功率も低い傾向があります。
また今回の女性には、予めビタミンDを含め、ビタミンやミネラルの摂取も進めていたため、栄養療法による改善もできたのだと思います。
栄養療法と鍼灸治療は相性がよく、栄養療法で血液に摂り入れた栄養を、卵巣や子宮に運ぶことで、卵胞の発育と、着床しやすい分厚い子宮内膜を育てることができます。
費用を考えても、1回の体外受精を節約できたことを思うと、鍼灸治療の経済性の高さは際立っています。
【追加 30.4.9】
無事、心拍確認をして頂きました。
ただ先日から、つわりが急に無くなり、「まさか!!」と思っていたそうですが、
ただ単に体調が良くなっただけのようでした。
当院では、比較的安定する妊娠13週程度までは、毎週体調管理のために来院して頂いています。
妊娠13週までを無事に過ごすと、出産率は90%以上となります。
また13週までで、つわりもおおよそ治まります。その間を快適に過ごして頂くために、
鍼灸治療を受けて頂くのです。