「生理も排卵も来なかったけれど1年待った甲斐がありました!」
大阪市在住 30代前半女性 多嚢胞性卵巣症候群の鍼灸治療症例
この患者さまが初めて鍼灸治療を受けたのは、もう1年以上前のことでした。なかなか効果が出ない中、辛抱強く通って頂き、念願の妊娠となりました。
この患者さまは、初潮の頃から生理不順気味で、生理も自力では来ないため、クロミッド(排卵誘発剤)の投薬を受けていました。ところが、その効果も徐々に無くなり、投薬を続けていても妊娠できないと、ネットで私の書いた多嚢胞性卵巣症候群の記事を見て来院されました。
【初診時のご様子】
始めて来院されたときから、かなり神経質になっているご様子が見て取れました。年齢的にはまだ若いのですが、自力では生理が来ないため、その不安感はかなり強かったのではないでしょうか?
お話を伺うと、妊活の為にお仕事を辞めて取り組んでいるとのことでした。ご主人が協力的で、ストレスを溜めてまでフルタイムで働かなくても、ゆっくり休んでから、パート程度で働けば良いと仰ったそうです。
そこで、ストレス過剰気味だった接客のお仕事を退職され、暫くは妊活に専念されるために来院されました。
肩こりや腰痛、冷え症などの、女性にはよく見られる不快症状を抱えており、ストレスも比較的よく感じる方だと自覚されていました。
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、抑うつ症状を抱える方が多く、ストレスもまた、多嚢胞性卵巣症候群の原因になります。
【多嚢胞性卵巣症候群の鍼灸治療】
多嚢胞性卵巣症候群の鍼灸治療では、他の不妊鍼灸と同様に、全身治療と局所治療を織り交ぜて行います。
1.不快症状を無くす施術。
2.卵巣の血流を改善し、卵胞の成長を促す施術。
3.脳ストレスを無くす施術
<初診時~12診目>
肩こりや腰痛を取り除くために、うつ伏せで、首、肩、背中、腰に太さ0.2㎜、長さ40㎜の鍼で刺鍼。次に卵巣の血流を促すために、仰向けで腹部に太さ0.18㎜長さ30㎜の鍼で刺鍼。更に、脳へのアプローチの為に、下腿に太さ0.16㎜長さ30㎜の鍼で刺鍼。
初診時から3カ月は、同じ方針で施術を行い、根本的な解決に努めた。治療の度に不快な要素は無くなり、初診から2カ月程度であまり不快な症状は感じなくなりました。
<13診目~37診目>
12診目の後に、前回とは違う不妊専門病院をご紹介しました。多嚢胞性卵巣症候群の投薬治療は、クロミッドを使う病院が多い中、海外では比較的スタンダードな、フェマーラを使用する病院を探しました。
フェマーラは、エストロゲンと言う女性ホルモンの合成を、阻害する薬です。エストロゲンが作られないため、視床下部からは、女性ホルモンを作るために、より多くのホルモン分泌が行われます。
それが卵胞の成長や、排卵に繋がるため、海外では多嚢胞性卵巣症候群の第一選択薬はフェマーラということになっています。
ところが日本では保険適応ではないため、あまり使用されません。医師は、自分が使ったことが無かったり、周囲の医師が使用していない薬は避ける傾向があるため、中々普及しません。
海外では一時期、奇形児が生まれるという報告があったそうですが、後にこの話は否定されています。
施術はよりシンプルに、うつ伏せで背中と首に1~3か所、骨盤部に2か所、太さ0.18㎜長さ30㎜で刺鍼しました。
次に仰向けで、腹部に太さ0.18㎜長さ30㎜の鍼で2か所、2㎝程度刺し、下腿に太さ0.18㎜長さ15㎜の鍼で2か所、数㎜のみです。
【38診目に妊娠判明】
36診目の2日前には、恐らく排卵しているご様子でした。37診目の前に排卵確認を行い、病院のエコーで確かに排卵していることを確認しました。
恐らく1W前に排卵していたご様子でした。生理予定日に生理が来ないため、検査薬で診たところ、妊娠反応を確認しました。
38診目からは、安定期に向けて、妊娠12週まで鍼灸治療を受けて頂きます。妊娠初期の流産は12週目までが9割以上を占めます。
特に多嚢胞性卵巣症候群の女性は、血液が固まりやすくなる、血液凝固異常を持つ方が多いため、初期流産を予防するために、鍼灸治療を推奨しています。
【初診から3カ月はからだ作りの期間】
今回の患者さまは、人口受精や体外受精などの高度医療を望んでいなかったため、タイミング法での妊娠を目指しました。
鍼灸治療は週1回とし、最初の3カ月は、準備期間として投薬を中止して頂きました。この準備期間の内に、生理周期を整える方針でした。
多嚢胞性卵巣症候群の鍼灸治療では、主にホルモン分泌と血液凝固の異常に対してアプローチします。
ホルモン分泌に関しては、LHとFSHのバランス、インスリンの働き、エストロゲンとプロゲステロンのバランスを整えます。
血液凝固に関しては、自律神経のバランスを整えることで、血液循環と血液凝固を正常化していきます。
<LHとFSHのバランスは卵胞成長の要>
多嚢胞性卵巣症候群の女性は、LHが多く分泌されるため、FSHとのバランスが乱れています。FSHが1に対してLHが1を超えると、多嚢胞性卵巣症候群になると言われています。
LHが増えると、LHの働きで作られるアンドロゲンという男性ホルモンが増えるため、男性化が起こりやすくなります。
男性ホルモンが増えることで、卵胞が成長できなくなるため、卵胞からエストロゲンが分泌されず、排卵なども起こりません。
またアンドロゲンは男性ホルモンですから、男性ホルモンが増えることで、顔が油っぽくなったり、ニキビが増えたりと言った体調の変化も起こります。
<インスリンの働きと多嚢胞性卵巣症候群>
インスリンは、血液中のブドウ糖を下げる働きをするホルモンです。血糖値が高い状態が続くと、インスリンが過剰に分泌されることで、高インスリン血症の状態になります。
ご家族に糖尿病の方がいるような、体質的にインスリンが働きにくい耐糖能異常を持つ方や、肥満傾向の方は、高インスリン血症になりやすい方です。
今回の患者さまは、ご家族に糖尿病の方がいたため、潜在的に高インスリン血症になりやすい体質だったようです。そのため、血糖値も高めの傾向がありました。
高インスリン血症の方は、LHが分泌されやすい傾向があり、多嚢胞性卵巣症候群になりやすい傾向があります。
実際に耐糖能異常や高血糖が見られた場合には、メトホルミンという糖尿病治療薬が使用されますが、今回の患者さまは使用されませんでした。
<エストロゲンとプロゲステロン>
エストロゲンが男性ホルモンであるアンドロゲンから作られることは、上の図でお分かりかと思います。
卵胞で作られるエストロゲンが一定濃度に達すると、LHの急上昇が起こり、排卵が起こります。これをLHサージと言います。
LHサージで排卵が起こると、排卵後の卵胞の殻が黄体となり、黄体内の細胞からプロゲステロンが分泌されるようになります。
このプロゲステロンが高温期や子宮内膜の変化を起こして、妊娠しやすい子宮内膜を作る働きをするため、排卵後のプロゲステロン分泌が起こらなければ妊娠はできません。
更に言うなら、排卵前の卵胞の成長が悪ければ、十分にプロゲステロンを分泌する細胞が育たないため、妊娠もしませんし、卵胞の中の卵子も良い卵になりません。
エストロゲンやプロゲステロンを外から補充するだけではなく、卵胞の中で、自分の力で作ることが、あなたの妊娠する力そのものになるのです。
多嚢胞性卵巣症候群の方は、卵の質もあまり良くないことが多いため、体外受精でも妊娠率が下がる傾向があります。
良い卵を育て、良い子宮内膜を肥厚させるには、ホルモンバランスを自ら整えるような鍼灸治療は、非常に効果的な治療法だと思います。