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多嚢胞性卵巣症候群には鍼灸と投薬の併用が効果的

2018年5月28日9:26 AM カテゴリー:不妊症

多嚢胞性卵巣症候群は、排卵誘発剤だけでは排卵ができないことも多いのですが、鍼灸治療を併用すると、排卵効果だけではなく、妊娠率の向上にも効果があるのです。

今回ご紹介するのは、2018年3月上海柱医薬大学からの研究論文です。

 

【上海中医薬大学での研究結果】

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29701043



多嚢胞性卵巣症候群に対する治療効果を、クロミフェン(クロミッド)単独とクロミフェンと鍼灸治療の併用との効果を比較検討し、その作用機序を調べたとあります。

この研究では、80人のPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)患者を無作為に抽出し、40人ずつの2グループに分けました。

この2つのグループで、E2(エストロゲン)、P4(プロゲステロン)、子宮内膜の厚さ及び形態、排卵率及び臨床妊娠率を比べて臨床効果を調べたとあります。

総有効率は鍼灸+薬物で86.8%、薬物単独で64.9%になりました。その他、E2、P4、子宮内膜の肥厚、妊娠率も鍼灸+投薬群で高くなりました。

 

【研究論文の解説】

 

今回の研究論文で使用されているクロミフェンは、一般名クロミッドとして、非常に多く使用される治療薬です。

恐らく排卵誘発剤としては、日本国内で最も多く使用される薬剤ではないでしょうか?タイミング療法から体外受精まで、排卵誘発剤として広く利用されます。

多嚢胞性卵巣症候群に対しても、頻度的には最も多く使用されているのではないかと思います。ところがクロミフェンでは全く反応しない方も多く、そういった方が鍼灸治療を求めて当院にも多く来院されます。

ここで少し排卵に関してご説明をします。排卵前の卵巣では、卵胞内の2つの細胞(莢膜細胞・顆粒膜細胞)が性腺刺激ホルモン(LH・FSH)の働きでエストロゲンを作っています。



LHは莢膜細胞内で、コレステロールからアンドロゲンを作ります。アンドロゲンは男性ホルモンの一種です。

正常な卵胞期では、莢膜細胞で作られたアンドロゲンを、FSHの働きで顆粒膜細胞内でアロマターゼという酵素でエストロゲン(E2)に変えます。

ところが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性は、LHが非常に高いため、アンドロゲンを作り過ぎてしまう特徴があります。

男性ホルモンが多くなりすぎると、FSHの働きでエストロゲンにする働きが追い付かず、男性ホルモンであるアンドロゲンが増え過ぎてしまいます。

男性ホルモンであるアンドロゲンが増え過ぎると、女性本来の働きは抑えられますので、卵胞の成長が起こらなくなります。

卵胞の成長が抑えられることで、エストロゲンの分泌も抑えられていしまいます。本来はエストロゲンが多く分泌することで、下垂体からLHが大量に分泌されることで排卵が起こりまが、多嚢胞性卵巣症候群ではエストロゲンが上手く作られないため、排卵が起こりません。

排卵後は、卵胞が黄体という組織になることで、黄体ホルモンであるプロゲステロン(P4)が分泌されますが、多嚢胞性卵巣症候群では排卵が起こらないため、プロゲステロンも正常には分泌されません。



そこで今回の研究論文では、E2(エストロゲン)、P4(プロゲステロン)、そしてこの二つの女性ホルモンの働きで肥厚する子宮内膜の厚さ、またその結果得られる妊娠率の上昇を調べたということです。

そして研究論文にあるように、結果的には、全ての数字で鍼灸と投薬の併用療法の方が、投薬単独よりも高い効果を発揮しました。

 

【結果の考察】

 

多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼灸の効果は、このブログでも数多くご紹介しました。過去に多嚢胞性卵巣症候群に関するブログを読んで頂いた方からすれば、また同じことを書いていると思われるかもしれません。

ただ鍼灸治療が嚢胞性卵巣症候群に高い臨床作用を持つことは、まだまだ知られていません。鍼灸治療が多嚢胞性卵巣症候群に発揮する作用としては、次のようなものがあります。

 

・視床下部に働いてGnRHを分泌する作用。
・LHとFSHのバランスを取る作用。
・血液循環を改善し、凝固作用を正常化する作用。
・耐糖能異常を正常化する作用。

 

一番最後だけは、一般的には聞き馴染みのない言葉かもしれません。耐糖能異常とは、血糖値を下げる働きのある、インスリンの働きが悪い方のことを言います。

インスリンは視床下部に受容体があり、耐糖能異常がある方は、視床下部でインスリンの感受性が悪いために、過剰にインスリンが分泌されます。そのため高インシュリン血症になってしまいます。

高インシュリン血症になると、LHの分泌が促進されることが分かっていますので、耐糖能異常が高インシュリン血症に繋がり、高インシュリン血症が高LHに繋がってしまうのです。

さらに高LHは高アンドロゲンに繋がるため、結果的に、耐糖能異常が多嚢胞性卵巣症候群になるというわけです。

鍼灸治療は、視床下部に働いて、この耐糖能異常を改善する作用があるようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29071974
<鍼灸刺激で糖尿病モデルラットのインスリン抵抗性が改善>

こうした複合的な作用により、多嚢胞性卵巣症候群に対して、改善効果があるものと考えられます。

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