夫婦で協力して不妊鍼灸を受けて妊活
大阪府在住30代後半女性と30代中盤男性のご夫婦の症例
ご夫婦が来院されたのは、2018年に入ったばかりの1月初めのことでした。2016年から始めた不妊治療を一時休止し、からだ作りのために当院を受診されました。
病院での不妊治療を開始してからは、タイミング法から始まり、ステップアップを繰り返し、最終的にに体外受精も受けていらっしゃいました。一旦は妊娠反応も出たものの、化学流産となりました。
病院の治療だけではなく、根本的にからだを変える必要があるのではないかとの考えから、色々と試行錯誤し、不妊鍼灸を受けてみようという気になったそうです。
【女性の状態】
実年齢は30代後半ですが、AMHが基準値よりも低く、40歳代と言われたそうです。AMHは卵巣予備機能とも言われ、卵巣内で発育している成長初期の卵胞から分泌されるホルモンです。
AMHが低い方では、排卵誘発剤を使用しても、あまり採卵数が多く採れないため、短期間で低刺激の排卵誘発を行います。
この患者さまは、不妊治療を開始してから体調の変動を感じることが多く、ホルモン剤とストレスの両方が原因になっているようです。
生理周期が24日とやや短く、出血に血の固まりが混じっているとのことでした。生理開始後2~3日で頭痛が始まり、痛み止めで紛らわしていたそうです。
生理周期が短く、固まりが混じったり、生理に伴う頭痛が起こることから、東洋医学的には瘀血という状態が考えられました。
瘀血とは、非常に血のめぐりが悪く、血が固まりやすい状態を指しています。
【男性の状態】
外回りの営業職をされているため、長時間の座位をしていると考えられます。肩こりや首こりを強く感じていて、頭痛がすることもあるということでした。
10年前から眠気を強く感じていて、睡眠時間自体は取れているのですが、熟睡できていない気がするということでした。
精液検査では目立った問題はありませんでしたが、上手くタイミングが取れない(射精できない)ことがあるそうです。
また最近、ニキビや吹き出物が多くできることも気になっているということでした。
こうした内容とおからだの様子から、お仕事と不妊治療のプレッシャーやストレスを、かなり受けていることが窺えます。
射精障害は、精神的ストレスが原因で起こりやすいため、ストレス管理はかなり重要だと思います。
基本的には体外受精の補助ですが、数値に表れない精子の異常にも繋がるため、男性側の体調管理は非常に重要です。
忙しい仕事の合間に、ご夫婦でご来院頂いたことは、結果に大いに関係すると思われます。
【治療方針】
<女性>
短期的には、採卵済みの胚を移植する際に、子宮内膜が適切に働くようにすることを第1目標としました。
長期的には、今後に備えて、自律神経を調節し、血流をスムーズにすることで、卵胞の成長を促し、質の良い卵を育てることができるようにと考えました。
両方に深い関係がある自律神経に関しても、バランスよく働けるようにと考えました。
<男性>
鍼灸治療により、高ストレスの影響による性機能の低下を防ぎ、精子の質向上を目指しました。また精巣内の血流増加により、精子の酸化ストレスを防止することで、質の向上を目指しました。
さらに、自律神経の調整により、血管の運動性を適正化し、重度の肩こりや首こりによる頭痛を改善することも重視しました。
【実際の施術内容】
鍼灸治療は基本的に週1回としました。週末にご夫婦で来院されることが多く、ご夫婦で協力して妊活をして頂けました。
<初診時の鍼灸治療>
女性の施術
卵巣の血流を増すために、骨盤周辺と腰部を中心に鍼を刺しました。
肩こりや胃腸不良などもあるため、不快症状を取る施術も行いました。
腹部には、卵巣を温める鍼を行い、お腹の固さを確認しながら施術しました。
配穴:
腎兪、志室、次髎、足三里、復溜、三陰交、関元(置鍼で15分)
首や肩の単刺(刺して直ぐに抜く方法)
男性の施術
左肩甲骨の周囲が盛り上がっており、高ストレスの状態が見て取れます。
腹部にも固さがあるため、こうした張りを取り除くために、背中や首に鍼を刺しました。
脈が全体に弱く、肩こりや頭痛も、血行不良やからだの弱りから出ているものだと分かりました。
配穴:
腎兪、膈兪、肝兪、脾兪、風池、地機、復溜、天枢、関元
(置鍼15分)
女性の施術(2~8診目)
胃痛が度々起こり、お腹が張っている感じがするため、お腹の張りに注意しながら刺鍼をした。
施術内容は同様でした。
男性の施術(2~7診目)
7診目を終わって、最近眠気が軽くなっていることに気付いた。病院で処方された八味地黄丸のお陰か、鍼灸治療の効果かは分からないとのことでした。鍼灸治療の効果であると信じたいところです。
施術内容は同様でした。
女性の施術(8~10診目)
胚移植後に9診目の来院をされました。施術内容はあまり変化がなく、子宮の血流を増やす施術を主として行いました。
今回移植した胚盤胞は、当院へ通院する前に採卵したものだということです。10診目の翌日が妊娠判定の日になっていました。
男性の施術(8~9診目)
奥さまが胚移植当日にご来院されたため、1回分の施術がズレましたが、ご一緒に来院されました。
生活環境や職場の変化から、肩こりや背中の張りを訴えていたため、不快症状軽減を主体に施術をしました。
肩の周囲に単刺、風池、膈兪、肝兪、脾兪、大腸兪、次髎
女性の施術(11~14診目)
前回の胚移植で陽性反応が出たのですが、胎嚢が確認されなかった。陽性反応後の化学流産や着床障害は、様々な原因で起こります。胚の質が悪いことも、大きな原因の一つです。
胚の質には、男女共の要因が考えられますので、どちらか一方の原因だと特定することはできません。今回のように、ご夫婦で来院して頂くと、胚の質は良くなります。
採卵しておいた受精卵が無くなったため、採卵から始めることになりました。鍼灸治療開始から約3ヶ月が経過しているため、卵の質は良くなるものと予想されます。
男性の施術(10~13診目)
依然感じていた眠気は殆ど感じないようになり、体調不良は特に感じていないということでした。体外受精に備えて、精子の質を上げるために施術をしました。
風池、肝兪、膈兪、大腸兪、次髎、太衝、中封、上巨虚、期門、関元
女性の施術(14診目)
排卵誘発にて、右の卵巣に6個の卵胞が育っていることが判明しました。採卵後、胚盤胞になるまで培養し、移植する予定とのことでした。
腎兪、志室、次髎、足三里、三陰交、復溜、関元に置鍼15分。
男性の施術(13診目)
採卵前、最後の受診となりました。精子の質を少しでも高めるため、に施術をしました。
女性の施術(15診目)
胚盤胞移植当日の施術になりました。今回は、胚盤胞が2個できたため、2個とも胚移植をしました。
女性の施術(16診目)
体調管理のために施術しました。本来なら、着床してそろそろ妊娠反応が出る時期でした。子宮に少し痛みを感じるということでした。
子宮の収縮を予防するために、気の滞りを無くす施術も加えました。
腎兪、志室、次髎、足三里、復溜、三陰交、関元、郄門
女性患者さまからTEL
病院での超音波エコー検査で、胎嚢確認ができたということでした。更に、その1週間後には、心拍も確認できました。
病院で心拍が確認されたのは、今回が初めてのようです。
【考察】
今回ご来院頂いたのは、体外受精で複数回胚移植をしても、妊娠反応は出るものの、そこから先に進めないご夫婦でした。
ごく初期の流産は、
受精卵に問題がある場合と、
子宮内膜に問題がある場合の二つのパターンが考えられます。
受精卵の問題は、
精子側の問題と卵子側の問題、さらに
相性の問題があります。こうした問題を解決するには、
根本的な体質改善が必要になります。
そのため、
ご夫婦ともに施術させて頂くことが、非常に重要になります。今回の患者さまは、ご夫婦お2人でご来院頂き、比較的長期間に渡り施術させて頂けました。
そのことが、今回の心拍確認に繋がったのだと思います。
もう一つの子宮内膜に問題がある場合とは
、着床障害に関する問題です。着床障害は、一部の専門病院で、オプションとして検査が可能です。
・慢性子宮内膜炎のスクラッチ検査
・血中の25ーOHビタミンD濃度
・血中の亜鉛銅検査
・子宮収縮検査
以上の検査が着床障害の検査です。着床障害がある場合、
妊娠反応すら出ない場合と、反応は出てもその後妊娠が継続できない場合があります。
着床障害と流産は密接な関係にあることが考えられます。不妊治療を受けていない方で、1~2週間生理が遅れたと思っていたら、
少し血の固まりが混じる程度の生理が来た場合、それは超初期の流産であるかもしれないのです。
こうした生理を繰り返していても、殆どの人は流産だとは考えません。少し生理が遅れたとしか、感じないはずです。
今回のように、胚移植をした後に妊娠判定をする場合には、妊娠判定をすることで分かるだけで、自然妊娠では気付かないことも多いのです。
こうした患者さまを施術する場合には、
着床障害を改善するということと、胚の質を上げるということの、両方を視野に入れて施術を致します。
こうして患者さまの状態を深く理解することで、今まで
病院の治療では効果の出なかった方にも、新しい命が授かるお手伝いをすることができます。