2017年10月30日5:05 PM カテゴリー:
不妊鍼灸,
症例
胚盤胞移植前の体調管理のための鍼灸 大阪市在住 30代女性
「今回を最後の移植にするつもりでした。」
・9月初旬に来院
・1か月後に胚盤胞移植の予定
・2人目不妊
・これが最後と決めての胚盤胞移植
・来院前に3回胚移植をして妊娠しなかった
【経過】
生理痛が強く、生理痛対策でピルを服用していたそうです。
ピルを服用してから、生理痛は軽減しましたが、生理不順になってしまいました。
1人目の妊活の際、前述の生理不順(排卵障害)があったため、体外受精を選択されました。
1回目の採卵で、20個以上の採卵ができ、胚盤胞が10個以上凍結保存できました。
胚盤胞移植1回目で妊娠され、その後無事出産されました。現在2歳のお子さんがいらっしゃいます。
自分や子どもの年齢も考慮し、今年に入り2人目の妊活を開始しました。今までに計3回の胚盤胞移植をしましたが、妊娠はしませんでした。
その後、不育検査の結果、血液凝固因子が陽性であったため、血液凝固防止にヘパリンを投与されるようになりました。
年齢のことやお仕事のこともあり、もうそろそろ妊活を止めようと決意し、最後の可能性に賭けて、鍼灸治療を受ける気になったそうです。
【初回時の診察】
初診時は、肩こりと頭痛を訴えていらっしゃいました。首肩を触ると、確かに首に凝りと熱感が感じられました。
腹診では、上腹部の固さと下腹部の軟弱さを感じました。上腹部の固さはストレスによる胃の張り、下腹部の軟弱は経産婦であることを考えても、子宮や卵巣などの機能低下の可能性を表していました。
そのため、子宮や卵巣の血流改善と、精神的ストレス軽減や生殖の中枢機能を向上させるため、脳に対するアプローチも加えました。
肩こりや頭痛は、放っておくとストレスの元になりますので、しっかりと治療で取り除きました。
【初回の鍼灸】
風池(両)、腎兪(右)、膈兪(右)
関元(接触鍼)、三陰交(左)、復溜(右)
使用している鍼は、全て0.18mmです。初診時は、首こりと頭痛を取り去ることを重視し、首の付け根にある風池穴に鍼をしました。
鍼を抜くと、頭痛や首の凝りが無くなっていることに驚いていました。
冷えのぼせは、肩こりや頭痛の原因となるだけではなく、妊娠しにくくなります。そのため、気を下に引き下げ、気血を下半身に巡らせるために、下腹部の関元穴に刺さない鍼をしました。
関元に鍼を当てると、胃腸が動き出し「グルグル」と音を立てて動き出しました。これは副交感神経が活発に働いていることを表します。
治療後に頭痛や肩こり、そしてお腹のアンバランスな固さが改善されたことを確認して、1回目の治療を終えました。
【2回目の鍼灸】
風池(両)、天柱(両)、志室(右)、厥陰兪(左)
中封(右)、復溜(右)、関元(接触診)
前回の頭痛は、1日で無くなったようです。引き続き血流改善とストレス軽減、下半身の冷え解消の目的で、鍼灸治療をします。
少し気の鬱滞が強かったため、足首の内側にある中封穴を加えました。元々の生理痛も、こうした気血の鬱滞が原因だったのだろうと思います。
気血の鬱滞が原因の生理痛は、非常に痛み強く、東洋医学では瘀血と表現されます。瘀血を作りやすい方は、出産後体調が良くなると言います。ただ実際には溜まった瘀血が排出されただけですから、時間が経てば再び瘀血が作られます。
昔のように出産回数が多ければ、瘀血が定期的に排出されるため、体調悪化は防げる可能性はありますが、現代では難しそうです。
今回の患者さまは、瘀血が1回目の出産で排出された後も、気血の鬱滞の体質が改善されなかったため、妊娠がしづらい状態になってしまいました。
【3回目の鍼灸】
風池(両)、心兪(左)、腎兪(右)
丘墟(左)、関元(接触鍼)、太谿(左)
移植前としては最後の施術でした。ツボは普段とあまり変わりませんが、移植前で不安感が強めに出ていたため、丘墟穴を加えました。
次回は移植直後に来院予約をして頂きました。移植当日の鍼灸治療は、着床率が上がることが分かっています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18440533
(IVF妊娠率は移植当日に行うと明らかに増加する)
【4回目の鍼灸】
次髎(両)、腎兪(右)、大腸兪(右)
関元(接触鍼)、復溜、(右)、解谿(左)
4回目は、胚盤胞移植の直後に来て頂きました。移植直後の治療は、通常軽めの施術で終わります。配穴はあまり変わりませんが、次髎穴という骨盤のツボを刺激して、内膜の血流を増加させ、着床率を上げています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16600232
(胚移植の当日の鍼治療は、不妊女性の生殖転帰を有意に改善する)
【妊娠判定と考察】
「妊娠反応が出ました!」とのご連絡を頂きました。
3度の移植失敗や、仕事と子育て、更に妊活を両立することが精神的に辛かったそうです。最後の施術後には、
「妊娠してもしなくても、これで最後にするつもりです。」と仰っていました。
今回の患者さまは、若いときから生理痛が強かったり、ピルの服用による生理不順があったりといった、婦人科系のトラブルをお持ちでした。
また、1人目の妊娠と、2人目以降の妊娠では、からだの条件が全く違います。1回の出産が、女性のからだにとっては、プラスとなることも、逆にマイナスになることもあるからです。
そのプラスとマイナスの要素を正しく理解すれば、2人目不妊の治療は難しいものではありません。この患者さまは、1人目の出産によるマイナス面が少なかったのですが、元々持っている体質の改善もされていなかったため、なかなか妊娠ができませんでした。
ただ、質の良い胚盤胞が採卵できていたということは、体力的な弱りは、そう強くなかったのだと思います。
そのため、少し内膜の状態や、ストレスの状態を改善するだけで妊娠に至ったのです。体力面でのマイナスがない場合には、2人目不妊はそう難しい問題ではありません。