2017年12月20日9:22 PM カテゴリー:
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群),
不妊鍼灸
PCOSは非常に多彩な症状や、原因が存在するため、一筋縄ではいかないことがあります。
投薬の治療でも、色々な試みがなされていますが、最近高い臨床効果が認められた治療薬に、フェマーラという薬があります。
【フェマーラとは】
フェマーラは、乳がんなどの治療薬として使用されているお薬です。女性ホルモンである、エストロゲンの生成を阻害するお薬です。
卵胞の中には、莢膜細胞と顆粒膜細胞という2種類の細胞があります。莢膜細胞はLH(黄体形成ホルモン)の受容体を持ち、LHを受け取ると、血液中のコレステロールから男性ホルモンであるアンドロジェンを作ります。
顆粒膜細胞は、FSHの刺激を受けて、アロマターゼという酵素を活性化して、エストロゲンに変える働きをしています。
フェマーラは、このアロマターゼに働き、アロマターゼを活性化させないことでエストロゲンの生成を阻害します。
エストロゲンが減ることで、脳の視床下部はエストロゲンを増やすために、LHやFSHを分泌するように働きかけ、結果的に排卵を誘発することになります。
またアルマターゼを阻害するため、莢膜細胞で作られたアンドロジェンが、エストロゲンに変わることなく増加します。増えすぎないアンドロジェンは、卵胞を刺激する働きがあるため、その働きも卵胞を成長させるようです。
【PCOSとフェマーラ】
最近の臨床報告では、PCOSにはフェマーラが効果的であるという報告が多いようです。
フェマーラ以外では、クロミフェン(クロミッド)や耐糖能異常の方に出されるメトフォルミンが処方されることが多いのですが、フェマーラの方が優れた点が多いとされているようです。
フェマーラは、クロミフェンと比べて体内に留まる時間が少ないため、副作用が出にくく、クロミフェンのような子宮内膜が薄くなったり、経管粘液が出にくくなったりということがありません。
またクロミフェンでは、多胎妊娠をしやすいという欠点もあります。体外受精のような、採卵後培養する方法なら、多くの卵胞が育つことは欠点ではありませんが、自然妊娠の補助として使う場合や、人工授精の補助として使用するのであれば、リスク管理が必要だということです。
フェマーラでは、この多胎妊娠の可能性もありません。先ほどご説明したように、フェマーラでは卵胞を育てる作用が強く、不妊傾向を招くような副作用がなく、しかも多胎妊娠の可能性もないのです。
これだけを聞くと万能薬のようですが、10年ほど前、このフェマーラで奇形児が生まれやすいという報告があって以来、閉経前の女性には使わないようにと製造元から通知が出ました。ただ現在では、この報告に関しては、否定的な見解が多く寄せられているそうです。
また体内から素早く代謝されるため、生理の起こり始めから3日程度使用するだけなら、母体には全く影響がなく、むしろクロミフェンより安全であるとの報告もあります。
以前はPCOSに対する治療の優先順位は、
1.クロミフェン(内服薬)
2.FSH製剤(自己注射)
3.フェマーラ(内服薬)
4.ドリリング(腹腔鏡手術)
でした。FSH製剤とは、卵巣で直接卵胞を刺激する製剤のことです。
またドリリングとは、卵胞の外側に穴をあける手術のことです。などにも動画が存在しますので、興味のある方は見て頂いても結構ですが、かなりショッキングな映像です。
こうした優先順位が、最近ではかなり変わってきています。最新の治療では、優先順位が次のようなものになっているようです。
1 フェマーラ(内服)
2 クロミフェン(内服)
3 FSH製剤(毎日自己注射)
4 ドリリング(腹腔鏡手術)
海外や最新のEBMでは上記のようになっていますが、患者さんから伺う話では、必ずしもそうではないように感じます。
同じ患者さんの投薬治療でも、複数病院にかかると、処方される投薬にはかなり違いがあります。実際のところ、ほとんどのPCOS患者さんでは、一昔前のクロミフェンが使用されていることの方が多い様に感じます。
【PCOSと鍼灸】
PCOSに対する鍼灸治療の効果は、海外も含めた、様々な臨床報告からも証明されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29231341
(PCOSに対する鍼灸治療の効果)
PCOSの方は、脳下垂体から分泌されるLHとFSHの内、LHだけが高くなることが知られています。鍼灸治療は、FSHを上昇させ、LHとFSHのバランスを取る作用があることが、この論文で書かれています。
またPCOSの方は、排卵障害だけではなく、
血液凝固異常を持つこともあるため、単に排卵障害だけではなく、妊娠初期の流産予防、そして妊娠維持を目的として施術します。