当院では、患者さまに分かりやすい妊活の指標として、お腹の冷えと不妊傾向のお話をさせて頂いています。
お腹の温度は、内部の内臓器の血流や働きと関係が深いため、へそから下腹部にかけての温度は、不妊傾向と関係が深いのです。
【腹部の温度と不妊傾向】
東洋医学では、腹診という診察技術があり、腹部の色や温度や固さなどを診ることで、その人の内臓の状態を知ることができます。
その内容によって、治療法が選択されたり、治療効果を判定しているのです。
不妊傾向がある方では、腹部の温度が低い人が多く、私たちの手のひらを当てると、非常に冷たく感じます。
これを具体的に実験した論文を発見しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27712655
Comparison of abdominal skin temperature between fertile and infertile women by infrared thermography: A diagnostic approach.
こちらは2016年に韓国で発表された論文です。論文の中では、30~39歳の肥満女性206人と、不妊女性250人の腹部温度を比較しています。
一般的に肥満女性は、皮下脂肪が厚いため、腹部温度が低いことが予想されます。
脂肪組織は筋肉組織に比べて血流が悪く、温度が低いからです。
実験では、神闕穴というツボから、関元穴というツボまでの温度を赤外線サーモグラフィーで調べています。
神闕穴はへそに当たる部分で、関元穴は恥骨とへその中間より、やや下あたりです。
この辺りの温度を測ったところ、不妊女性では肥満女性よりも腹部温が低かったそうです。
私たちの臨床で感じる経験通りで、納得がいく内容です。
【腹部温度と鍼灸治療】
鍼灸治療を腹部に施すと、明らかに腹部の温度が上がります。普段の臨床では、来院時は歩いて来院されるわけですから、程よくからだが温まっているはずです。
ところが治療後の方が、明らかにお腹の温度は高くなっています。
これは鍼灸治療によって、副交感神経の働きが優位になり、腹部の血管運動が盛んになったせいです。
同時にこれは、その内側の内臓器である、子宮や卵巣の血流も良くなったことも表します。
その結果、
・卵胞の血流増加⇒卵の質が良くなる、卵胞の成長が良くなる
・子宮の血流増加⇒子宮筋の活動が良くなり精子を動きやすくする、子宮内膜の肥厚、分泌物の増加により着床が良くなる
といった効果が認められます。
ここで一つご注意があります。それは「
温まる」と「温める」の違いについてです。
鍼灸治療でも、温灸という治療法がありますが、これは温度で体内を温めているのではありません。
あくまでも皮膚表面を温めることで、反射的に体内の臓器に血液を送り込んでいるのです。
海外の論文でも、体温が変わるほどにからだを温めると、返って不妊傾向や流産傾向が現れると発表されています。
そのため、温泉やよもぎ蒸しのように、過剰に温めることで、妊活にとって不利になることもあります。
あくまでも血流を増加させて、
温まるということを目指して下さい。