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ストレスによる不妊と鍼灸

2017年10月8日10:19 AM カテゴリー:お勉強,不妊鍼灸

妊活にストレスが関係することは、何となくあなたもお感じのことでしょう。「病院通いを止めたら、その月の内に妊娠した。」などという、都市伝説のようなお話も、聞いた頃があるかもしれません。

この、ストレスによる妊娠への影響を理解すれば、それを妊娠へ一歩近付くはずです。では一つずつご紹介します。


<ストレスと脳>

まずは、脳のお話をさせて頂きます。脳は、働きで大きく二つに分けると、本能行動や情動行動を担当する「辺縁系」という脳の中心部分と、その外側で人間が人間として生きていくために進化させた「新皮質」に分かれます。

ストレスは、この辺縁系という部分が主役になります。辺縁系の中には、記憶に関係の深い「海馬」と言われる部分や、情動に関係の深い「偏桃体」と言われる部分があります。この二つの部分は、互いに影響しあって働いています。

古代の人類が、まだ狩猟を繰り返していた頃は、この情動と記憶が、生きていく上では必要でした。外敵に出会った時の恐怖や、その時の体験を記憶することで、次に外敵に出会ったときには、より適切な行動がとれるようになるからです。

ところが現代では、発達した新皮質のせいで、脳に大きな負担を掛けることになってしまいした。「嫌な体験や出来事を、海馬に記憶して、それを幾度となく新皮質で思い出しては、偏桃体で感じ取る。」といった負の連鎖を繰り返してしまうのです。

そして、終わりのないストレスの無限ループが、あなたの体調や脳の機能を狂わせるのです。こうした脳の働きは、様々な病気や機能低下を生みだします。

機能性不妊も、ストレスによって狂わされた脳機能が関係しています。

<ストレスとコルチゾール>

人がストレスを受けると、ストレス刺激は脳の視床という部分を通って、海馬や偏桃体に伝わります。視床は、からだの外側から入って来る情報の、中継地点になっています。様々な情報は視床を通る際に、行き先を決定されます。

ストレス刺激は視床を通り、偏桃体や海馬で処理されると同時に、新皮質や視床下部など他の脳にも情報を伝えます。

新皮質は人間的な思考や行動の中枢ですので、論理的にストレスを捉え、理解し、対応しようとします。

視床下部は、本能行動の中枢ですので、外敵の攻撃に備えて臨戦態勢を取ります。更に視床下部は、脳下垂体、副腎へと指令を与えて、副腎からコルチゾールというホルモンを放出させます。

コルチゾールは抗ストレスホルモンと呼ばれており、一般的には副腎皮質ホルモンと呼ばれています。副腎皮質ホルモンは、抗炎症ホルモンとしても有名です。

このコルチゾールは、短期間なら非常に有益に働きますが、長期間コルチゾールが分泌されると、色々な弊害を生みだします。その一つは海馬や偏桃体の萎縮です。

海馬や偏桃体が委縮すると、負の記憶の連鎖が断ち切れなくなり、いわゆるPTSDのような状態になります。不妊治療は、繰り返し心身の苦痛を感じることが多いため、こうしたコルチゾールの分泌に繋がりやすく、PTSDに近い状態になってしまいます。

また多くの方は、不妊治療以外にも、日常にストレスを抱えています。お仕事やプライベートで抱えたストレスに、更に不妊治療のストレスをプラスした状態なのです。

一つ一つは小さなストレスの波でも、幾つも合わさることで、非常に大きなストレスの波になって、あなたに襲い掛かってきます。

<コルチゾールと不妊>

コルチゾールは、不妊にも大きな影響を与えます。コルチゾールの過剰分泌は、男性ホルモンの元になるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)を大量に分泌させます。

DHEAは不妊治療でも応用される物質なので、一見して不妊治療に効果がありそうです。ところが、ストレスをかけ続けられた副腎は、その内疲弊して働きが落ちてしまうのです。そして副腎が疲れてしまうことで、DHEAの分泌は抑えられてしまいます。

また、コルチゾールが分泌される状況は、本来外敵などと対峙した状況です。少し想像してみて下さい。あなたは外敵と遭遇し、見事外敵から逃れることができました。そこで大きく一息つきます。

大きく一息つく状況は、緊張状態から解放された状態です。この一息つく状態というのが、非常にからだには重要です。一息つくことでストレス状態から解放され、傷付いたからだを修復したり、疲れた脳を休ませる機能が働くのです。

ところが現代社会のストレスや、不妊のストレスは一息つく暇を与えてくれません。あなたの現状は、十分にからだを休ませることができているでしょうか。常に外敵と戦っている状態では、ゆっくり妊活をするからだの状態ではないのです。

母体が危険に晒されている状態ではないと、からだが認識するだけでも妊娠する力は上がります。そのために、ストレス対策は必要なのです。

<新皮質を利用してストレス対策>

それでは大脳新皮質を活かして、ストレスで狂わされている大脳辺縁系を整える方法をご紹介します。

人間は、生物の中で唯一、新皮質を大幅に進化させた生物です。新皮質は、経験に基づく論理的な考えを行う部分です。辺縁系は情動という非常に強いパワーを持った部分ですが、新皮質である程度はコントロールすることができます。

新皮質を使って情動をコントロールする方法は、新皮質の特徴である論理的に分析して、ストレスを表在化させることから始まります。今の自分にとって、何がストレスになっているのかを、言葉にして具体化させます。できればノートなどに書き出してみると良いと思います。

それに対して、自分が好きなことやストレス解消になるようなことも具体的に書き出します。好きなことは、できるだけ具体的に、沢山思い出して下さい。

例えば、

・買い物をしていると解放される
・ペットと戯れて癒される
・マッサージを受けて癒される
・夫婦の会話で癒される
・大好物のスイーツで癒される

など、できるだけ具体的な方が良いと思います。好きなことや楽しいことは、多ければ多いほど効果的です。100個程度書き出せれば、効果的だと言われています。

こうした、ストレスの原因や解消法を具体的に把握し、自分のストレスを把握することが、論理的な脳である新皮質を活かして、ストレスに対応する秘訣です。具体的に両者を把握することで、脳が溢れ出てくる過去のストレス記憶を処理できるようになります。

<ストレス対策を鍼灸で行う>

鍼灸刺激は視床を通って海馬や偏桃体を刺激し、これらの脳機能を回復させる効果があります。この効果は大きく二つに分かれます。

・神経栄養因子に働きかけ、委縮した脳細胞を回復させる。
・海馬や偏桃体の神経回路を回復させる。

それぞれ海外での論文をご紹介します。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11796192

こちらは、ストレスの影響で、海馬の神経組織が委縮したラットに対する、鍼灸治療の論文です。鍼灸は、神経細胞を回復させる働きを持つ、神経栄養因子が発現するそうです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27693978

こちらでは、大うつ病女性46人を、「鍼灸治療と投薬併用群」と「偽鍼と投薬併用群」の2群に振り分けて、治療効果を比べました。この試験では、鍼灸治療を加えた群では、偏桃体や海馬と大脳皮質を繋ぐ神経回路の回復が認められました。この回路は報酬系という、成功報酬に関連する部位です。この部位が低下することが、うつ病の原因の一つと言われていますので、鍼灸治療はうつ病にも効果があるということのようです。

こうした脳を回復させる作用が、ストレスから起こる不妊にも効果的に働きます。また鍼灸には女性ホルモンや自律神経に対する作用もあるため、心身を回復させながら妊活ができるということです。

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