【はじめに】
不妊鍼灸の効果発現は複雑で、ある一つの仕組みや働きで起こるわけではありません。効果の発現には、幾つものパターンがあり、それを使い分けることが、術者にとっては腕の見せ所となります。
私たち鍼灸師は、こうした仕組みがどこで乱れているのかを知り、それに対して施術を加えることで、本来の働きを取り戻すように施術します。
不妊鍼灸では、自律神経やホルモン代謝などを鍼刺激で適正化し、あなたの妊娠する力を高めていきます。
【ホルモン代謝と不妊鍼灸】
妊娠には、生理周期や生命維持の働きが強く関係していますが、こうしたからだの仕組みには、ホルモンの存在が欠かせません。
消化吸収にもホルモンが関係しますし、生理周期にもホルモンが関係します。妊活においては、ホルモン分泌は、男女ともに非常に重要な要素となります。
こうしたホルモンが適切に働くには、
1.ホルモンが適切に分泌されている。
2.ホルモンが必要な場所へ運ばれる。
3.ホルモンを受取る受容器が適切に働く。
といった仕組みが、しっかりと働く必要があります。
<1.ホルモン分泌>
鍼灸治療は、ホルモン分泌を調節する働きがあります。特に、生理周期に関係するホルモンである、GnRH、FSH、LH、E2、P4などに影響を与え、適切な量やバランスに整える作用があります。
鍼灸治療の場合には、ただ一方向性に上がり下がりするのではなく、適正化されるというのが最も特徴です。
例えば、FSHは卵胞刺激を行うためのホルモンですが、卵巣機能が低下すると、反応が悪い卵胞に対して、大量のFSHを分泌するようになります。
そのためFSHが高くなると、卵巣機能が低下していると判断します。
FSHが高くなった人に対して、適切な鍼灸治療を行うと、卵巣の反応性が高まるため、FSHは自然に低くなります。
ところが、多嚢胞性卵巣症候群のように、LHが高くなることで、FSHが低くなってしまうような方の場合には、全く逆のことが起こります。
つまり、多嚢胞性卵巣症候群の方に対して施術をすると、LHの数値が下がり、FSHが上がるという現象が見られます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29696918
<多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼灸治療:スウェーデン>
多嚢胞性卵巣症候群に対する鍼灸治療の論文は、海外のものなら複数見付かります。その中では、状況によって妊娠しやすい状態に、ホルモンの数値が上がり下がりするのが分かります。
<2.ホルモン輸送>
ホルモンは、血流によって運ばれます。そのため、血流量をコントロールすることが、ホルモン輸送には重要です。
特に妊活では、卵巣や子宮への血流が重要ですので、卵巣や子宮を出入りする動静脈の血流に対して子宮治療でアプローチします。
子宮や卵巣への血流改善で有名な陰部神経刺鍼は、骨盤後面に対して行われる鍼灸手技です。交感神経をブロックすることで、副交感神経を優位にして、血流を改善する効果があります。
また、それ以外にも、手足のツボを使用して、子宮や卵巣の血流を増やす方法もあります。どの方法を使用するかは、その方の体調や体力にもよります。
<3.受容器感受性が上がる>
鍼灸治療は、ホルモン受容体の感受性を増すことで、少量のホルモンでも十分に反応することができるようになります。
その結果、ホルモン分泌が減ることもあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22729015/
<肥満女性における鍼灸治療の効果>
中国では、肥満に対する鍼灸治療をよくしているようです。この論文では、肥満者に対する鍼灸治療を行い、その中でレプチンというホルモンと、インスリンというホルモンを測定しています。
レプチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、脳の視床下部にある、満腹中枢を刺激して満腹感を出すホルモンです。
肥満になると皮下脂肪が多いため、大量のレプチンが分泌されます。視床下部は、大量のレプチンを受取ると、返って感受性が鈍ってしまい、満腹感が出ないようになってしまいます。
鍼灸治療を受けたものでは、レプチンの感受性が上がり、満腹感が強く出るそうです。また、レプチンの分泌量は、それに伴って少なくなり、徐々に痩せやすい状態になるそうです。
インスリンは、血糖値を下げるホルモンとして有名です。インスリンも、レプチンとよく似たところがあります。
インスリンの受容体は視床下部にあり、血糖値が上がるとインスリンが分泌されますが、インスリンが分泌されすぎると、受容器の感受性が下がってしまい、血糖値が下がらなくなります。
そのため、更に多くのインスリンが分泌されるようになり、感受性もまた下がり続けます。鍼灸治療を受けると、インスリンが働きやすくなり、インスリンの分泌量が下がります。
インスリンは、脂肪細胞への脂肪の取り込みも促すため、インスリンの分泌量が減れば、皮下脂肪が付きにくくなります。つまり、痩せやすくなるのです。
このインスリンは、多嚢胞性卵巣症候群とも深い関係があります。インスリンの感受性が高まり、分泌量が減ると、LHの分泌量が減ることが分かっています。
LHが低くなると、多嚢胞性卵巣症候群は改善される傾向があるため、肥満治療と多嚢胞性卵巣症候群には共通点も多いのです。