【不妊鍼灸の効果とは】
不妊鍼灸とは、西洋医学的に不妊だと診断されたり、或いは不妊傾向にあるとされている人に対して行う鍼灸治療です。
西洋医学的には、避妊などをせずに、健康な男女が1年以上性交をしても妊娠に至らない場合を、不妊であるとしています。
不妊については、イメージとしては理解できても、一語一語を考えていくと、少し意味合いが変わって来るかもしれません。
例えば、健康な男女がとありますが、健康の定義にも色々ありますので、毎日のように性交をできる男女と、月に1回しか性交ができない男女では、同じ性交ができていると言っても、健康度が違います。
不妊鍼灸では、この
健康度に対しても、施術を加えることで改善を図ります。つまり健康度をより高めて、妊娠しやすいからだを作るということです。
不妊鍼灸を受けて頂いた結果、次のような変化から妊娠しやすくなると考えられます。
1.ホルモンバランスが整うことで、タイミングが取りやすくなる。
2.卵巣の血流が良くなり、卵胞の成長がスムーズになり、質の良い卵が育つ。
3.精巣の血流が良くなり、精子の質が上がり劣化を防ぐことができる。
4.自律神経のバランスが整い、免疫バランスが整うことで着床しやすくなる。
5.ストレス緩和作用により、性欲が増加しタイミングを複数回取れるようになる。
6.血栓を防ぐ作用により、流産の予防作用がある。
鍼灸治療を受けることで起こる、1から6の変化は、あなたが抱える不妊の原因に、ピンポイントで働きます。そしてもこうした働きの多くは、西洋医学を受けることでは得られない効果なのです。
こうした働きをもう少し深堀してご説明させて頂きます。
1.ホルモンバランスが整うことで、タイミングが取りやすくなる。
タイミング法や人工授精の場合、何よりも難しいのはタイミングの取り方です。排卵の少し前にタイミングが取れなければ、いくら質の良い卵や精子でも、妊娠には至りません。
そのため排卵のタイミングを知るためにも、しっかりと同じ周期で排卵してくれることは、あなたが妊娠するためには欠かせません。
一般的に言うホルモンバランスとは、卵胞を育てるホルモンであるLHとFSH、そして卵巣から分泌されるE2(エストロゲン)とP4(プロゲステロン)を指します。
LHは黄体刺激ホルモンや黄体化ホルモンと呼ばれ、脳の下垂体から分泌されることで、卵巣内の卵胞に働きかけて、アンドロゲンと言う男性ホルモンを分泌させる働きがあります。
一方FSHは、卵胞刺激ホルモンと呼ばれ、LHと同じ脳の下垂体から分泌されています。FSHは、卵巣に働きかけて、LHの働きで作られたアンドロゲンを、エストロゲンに変える働きがあります。
この2種類のホルモンが、バランスよく働くことで、エストロゲンが作られると、それを感知した脳からは、再びLHを分泌するように命令が出ます。
これをLHサージと言い、LHサージが起こると、排卵に向けての卵胞の変化が起こります。LHサージが起こると、1~2日後に排卵が起こります。(正確には分かりません)
排卵検査薬では、このLHサージを知ることはできますが、検査薬で排卵を正確に知ることはできません。
排卵後、卵子が無くなった卵胞(卵の殻)からは、黄体という組織が作られます。この黄体から、黄体ホルモンであるプロゲステロンが分泌され、高温期を作ります。
黄体からは、排卵前に引き続きエストロゲンも分泌されており、黄体からはエストロゲンとプロゲステロンが両方とも分泌されていることになります。
このエストロゲンとプロゲステロンのバランスも、タイミングには欠かせません。エストロゲンは、排卵前の卵胞の成長や子宮内膜の肥厚を助け、排卵後は、プロゲステロンが子宮内膜の変化を促して、着床しやすい子宮内膜に変化させ、高温期を維持します。
この2つのホルモンがバランスよく分泌されないと、あなたの生理周期は乱れ、着床しにくい子宮内膜となってしまいます。
鍼灸治療は、こうしたホルモンのバランスを取る働きがあります。FSHとLHに関しては、下垂体に命令を送る視床下部に刺激を影響を与えることで、バランスよい分泌を促します。
また卵巣への血流を促し、ホルモンの感受性を高めることで、卵胞の成長をスムーズにして、ホルモン分泌を適正に行えるようにします。
2.卵巣の血流が良くなり、卵胞の成長がスムーズになり、質の良い卵が育つ。
鍼灸治療は、自律神経を通じて、卵巣への血流を増やします。卵巣への血流が増えると、血液に載って運ばれる栄養素や酸素、そしてホルモンの量も増えるため、卵胞の成長がスムーズになります。
卵胞の成長がスムーズになると、卵胞で作られ分泌されるホルモンも多くなり、卵の質も良くなります。
最低でも3か月以上かけて卵の質を上げる努力をすると、生理周期が整い、子宮内膜が育ち、そして卵の質が改善されます。
3.精巣の血流が良くなり、精子の質が上がり劣化を防ぐことができる。
精巣では、常に新しい精子が作られていますが、外気温の変化や体温の変化に敏感に反応して、精子の質を劣化させます。
その中でも、血液の逆流による問題は深刻です。構造上、左側の精巣静脈は血行障害を起こし易く、しばしば静脈瘤を作ります。
また、卵巣に比べても低い位置にあるため、重力を考えても、より血行不良に陥りやすいと考えられます。
鍼灸治療は、精巣に出入りする血液循環をスムーズにすることで、精子の質を改善する働きがあります。
精巣からの静脈にできる静脈瘤(精索静脈瘤)に対する治療効果では、外科治療よりも鍼灸治療の方が改善が見られたとする海外論文もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26791438
(精索静脈瘤患者に対する鍼灸治療と手術療法の効果を比較するランダム化比較試験)
こちらの論文では、精索静脈瘤を持った男性不妊患者に対して、鍼灸治療と手術療法での効果を比べています。
その結果、鍼灸治療と手術療法では殆ど効果に差が無かったが、精液濃度は鍼灸治療の群で高かったとあります。
妊娠率では、鍼灸群、手術群共に、33%増だったとされています。
4.自律神経のバランスが整い、免疫バランスが整うことで着床しやすくなる。
自律神経は、交感神経と副効果に神経に分けられます。活動時には交感神経が働き、休息時には副交感神経が働きます。
一般的には交感神経は緊張すると働き、リラックスすると副交感神経が働く為、リラックスをするための副交感神経が、良い方の自律神経と勘違いされますが、実際には違います。
副交感神経が強く働きすぎると、アレルギーや炎症症状は強くなりますので、喘息を起こした時には、交感神経が働くように薬を使います。
つまりどちらかに偏ることがダメな訳で、どちらか一方が良い働きをするわけではありません。これは妊娠や出産の際にも同様です。
交感神経が働き過ぎると、精子に対して攻撃的になる、抗精子抗体が働くと言われています。また逆に副交感神経が働きすぎても、不育症や着床障害が起こるとされています。
やはり、交感神経と副交感神経の、バランスが大切なのです。
鍼灸治療は、自律神経のバランスを整え、過敏になった神経を鎮め、働きの悪くなった神経を活性化する働きがあります。
詳しい仕組みはまだ判明していませんが、交感神経に対しても、副交感神経に対しても、抑制と亢進の両方の働きをするようです。
こうした鍼灸の働きは、現代医学では見られないもので、東洋医学独特の、バランス治療を支えてきた源泉でもあります。
5.ストレス緩和作用により、性欲が増加しタイミングを複数取れるようになる
鍼灸治療は、自律神経だけではなく、その中枢である視床下部にも働きかけます。また、鍼灸刺激を加えながら、脳の活動を測る装置で計測すると、感覚中枢の中継地である視床、情動活動の中枢である扁桃体、そうしたことを記憶する海馬などの活動性が上がることが分かっています。
その中でも、報酬系と呼ばれる脳の回路に対する影響は、うつ病などにも応用ができるものです。報酬系は、自分が行動をする際にモチベーションを高くするために、心地よい感覚をもたらすものです。
報酬系が上手く働くと、前向き感が強くなり、物事の行動を意欲的に行うようになります。性行動にも、この前向き感や快感が強く関わります。
鍼灸治療は、機能しなくなった報酬系を復活させる働きがあるとされています。そのため、仕事のストレスにより出なくなった、前向き感を復活させたり、度重なる性行動の失敗で起こるEDなどを改善する働きもあります。
ストレスが緩和されると、多くの人が性欲の上昇を感じるのは、そのためではないかと思います。こうした性欲の変化は、男女関係なく起こるようです。
6.血栓を防ぐ作用により、流産の予防作用がある。
血液凝固には、自律神経と免疫反応が大きく関与します。交感神経が働くと、血液は凝固傾向が強くなり、出血を長引かせないようにします。
交感神経は、活動時に働く神経ですから、活動時に怪我をしても重症化しないようにという、からだの仕組みです。
逆に副交感神経は、休息時にからだの回復をするための神経ですから、できるだけ血流量を増やして、血液をサラサラの状態で、回復が必要な部位に届きやすくします。
そうすることで、組織の修復に必要な栄養や酸素、ホルモンなどを、たくさん届けるのです。
妊活中は、回復期に当たりますので、少しでも多くの血液を届けるために、副交感神経の働きを重視します。
勿論バランスは大事ですが、仕事を持っている人や、高ストレス状態の人は、交感神経が働きすぎている人が多いため、副交感神経の働きを重視します。
鍼灸治療では、局所的に交感神経の働きをブロックして、副交感神経の働きを活発にしたり、脳に働きかけてリラックス状態を作る(5.参照)ことで、副交感神経を優位にして、血液凝固を防ぎます。
血液凝固が予防できれば、血栓症が起こりやすいOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を防いだり、胎盤の小血管での血栓症を防ぐことで、流産を防ぐことも可能になります。