今回は胚移植当日の鍼灸治療についてです。
妊娠率が上がると、評判の胚移植当日の鍼灸治療とは、どのようなものかをご紹介します。
【胚移植とは】
体外受精や顕微授精の場合、採卵した卵を受精させます。この時、精子を卵の周囲に入れるだけのものを体外受精、人工的に卵の中に精子を注入するものを顕微授精と言います。
この時出来た受精卵のことを、「胚」といいます。胚は分割をさせる日数により、分割する数が違うため、違った呼び名で呼ばれます。
分割初期のものを初期胚と呼び、分割を進めるに連れて、妊娠する成功率が上がっていきます。
自然妊娠の際には、着床時に5~6日目の「胚盤胞」と呼ばれる状態になっているため、体外受精や顕微受精でも5~6日目の胚盤胞を子宮に戻すことが目標になります。
順調に分割した場合には、5~6日目で胚盤胞になりますが、そのまま子宮に戻すのか、一旦凍結してから戻すのかによっても妊娠率が変わります。
以前は、凍結胚にすると、質が悪くなったり、解凍する際に胚が崩れてしまうことがありました。
そのため、同じ周期で移植することも多かったのですが、最近は技術向上のお陰か、凍結胚を解凍しても質の劣化は防げているようです。
特に日本人では、凍結胚の方が妊娠率が高いようですので、凍結胚で胚盤胞移植を使うのが、最も妊娠率が高い方法だと言えます。
【胚移植当日の鍼灸】
胚移植当日の鍼灸の効果は、大きく4点です。
・子宮内膜・筋層・周辺組織の血流増加
・疼痛の軽減
・精神的ストレスの軽減
・子宮内膜免疫系の制御
鍼灸刺激は、子宮や卵管などの血流を増加させ、運動性や周辺の組織への栄養供給を増やします。
血流が良くなった子宮内膜では、分泌物の増加や内膜の肥厚などを起こし易くなります。
また鍼灸の効果は、末梢神経から伝わる痛み信号のブロック、脳ストレスの軽減に働きます。痛みや心理的不安感は、妊娠率に大きな影響を与えます。
もう一つの大きな効果は、子宮内膜で行われる免疫活動の制御です。子宮内膜では、普段感染症を予防するために、強い免疫作用を持っています。
こうした免疫反応が過剰に起こると、受精卵を異物と見なして、免疫系による攻撃が起こります。免疫系が活性化すると、着床の障害だけでなく、初期流産にも繋がります。
不育症とも関連する免疫の働きを抑えることで、着床しやすく、妊娠を継続しやすい内膜を育てることができます。
【胚移植当日の鍼は、移植の前後どちらに行うか】
移殖の前後どちらに行うかは、その方の状態で多少は違いますが、結果的には大きく差は出ません。
胚移植をしてから、胚が着床するのは移植後2~3日後です。アシストハッチングをした場合でも1日後とされていますので、移植の前後数時間では、あまり状況の差はありません。
※アシストハッチング:肺移植の際に、胚の透明帯に穴をあけて着床しやすいようにする処置。
私自身、周囲の高度医療専門病院で移植された方に、胚移植直前、直後、1日前の夜と施術を繰り返してきましたが、大きな差はありませんでした。
敢えて違いが出たとするなら、心理的な不安感が強い人は、移植の直後に鍼灸をさせて頂いて、心身ともにリラックスした状態でお帰り頂く方が良いようです。
過去に一度も通院歴がない方で、完全に1度だけなら、胚移植の数時間前の施術が効果的であろうと思います。
これは鍼灸に対する緊張感や、効果の持続時間とのバランスを考えてのことですので、胚移植前に1度でも来院されている方なら、前後どちらでも良いと思います。
・移殖に対する不安感が強い方は、移植の直後にご来院下さい。
・通院歴が全くない方は移植の数時間前にご来院下さい。
・それ以外の方は、移植の時間帯に余裕を持てれば、前後どちらでも結構です。
鍼灸治療は、是非時間的な余裕を持って受けて下さい。鍼灸の効果が最も顕著に表れるのは、リラックスしたときです。
焦って来院されて、急いで移植に向かったり、「移植に間に合わないから急いで鍼を刺して下さい!」という状態では、せっかくの鍼灸治療の効果も半減してしまいます。