当院で行う鍼灸治療は、伝統的な東洋医学的治療を元にして行いますが、できるだけ最新のエビデンスも取り入れて、一般の方にも分かりやすく、他の医療関係者が見ても納得のいく内容にしたいと思っています。
ここ最近の生殖医療に関するトピックを見ていると、排卵後の子宮内環境に関するものが多く見られます。
今までは、妊娠初期の流産や着床障害は、卵の質が原因だと思われていたのが、実際には、子宮内膜の環境が問題ではないかというのです。
【子宮内環境は常に変化する】
子宮内環境が常に変化することは、子宮内膜が生理周期により変化して、最終的に脱落して生理が起こることからも分かります。
子宮内膜は、生理周期によってその形態を変化させるだけではなく、免疫の状態や血流も変化させています。
排卵時には、子宮内の免疫機能を低下させ、免疫寛容という状態を作り、精子や受精卵を受け入れやすくします。
また受精卵が子宮内に戻ってくる時期には、子宮内の酸素濃度を低下させ、大気中よりも低い酸素濃度で、細胞分裂を盛んにしています。
そのため体外受精などで移植する胚も、成長の時期によって、違う酸素濃度で培養されています。
私も以前は、イメージ的に酸素は豊富であるに越したことはないと考えていましたし、その為にも血流は盛んな方が良いと思っていました。
ただ実際には違っていたことが分かり、血流に関しても更に検証が必要なのかもしれません。
【体外受精の場合には、高温期の鍼灸は必要ない?】
先程の酸素濃度の話からすると、高温期には血流改善は必要ないのかもしれません。
血流が盛んであると、どうしても血中の酸素がヘモグロビンと共に運ばれますので、酸素濃度も高くなりそうな気がするからです。
実際に海外の研究論文では、胚移植後の高温期に鍼灸治療をしても、妊娠率には変化が起こらなかったというものもありました。
そうしたことを考えれば、移植当日に鍼灸治療をした後は、判定日までは治療をしないという方法も一つの選択肢になりそうです。
ただ鍼灸の働きは、それだけではありません。高温期にする鍼灸治療にはもう1つ重要な働きがあるのです。
その働きは、血液凝固に対する働きです。鍼灸治療を受けると、異常に血が固まりやすい、血液凝固異常を改善することができます。
血液凝固異常を治療できれば、妊娠初期の胎盤での血栓症を防ぐことができます。
こうした効果を期待するなら、高温期にも鍼灸治療を受ける意味はあります。勿論、血液凝固異常を持っている方のみでも構わないと思います。
【効果的な不妊鍼灸の受け方と生理周期】
<月経期>
血液凝固をしないように、サラサラした血を出し切るために施術を行います。
<卵胞期>
卵胞に血液をたくさん送り、卵胞の成長を促すために施術をします。卵胞期に卵胞を成長させるには、卵巣への血流と、ホルモンバランスが大切です。
鍼灸治療は、LHとFSHのバランスを整え、卵胞内でのエストロゲン分泌を増やす働きがあります。
しっかりエストロゲンが作られると、LHサージが起こり、排卵が起こります。
体外受精では、採卵前の時期に当たります。この時期には、排卵誘発剤を使用するため、鍼灸治療でホルモン剤を卵巣に運ぶことで、採卵数の増加が狙えます。
またhcg注射をすると起こりやすい、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)を防ぐ効果が鍼灸にはあるため、採卵前後の鍼灸治療も欠かせません。
<排卵期>
しっかり排卵して、良い黄体期を作るために施術します。排卵後の卵胞からは、黄体が作られ、黄体ホルモンであるプロゲステロンが作られます。
体外受精では採卵前後に当たりますが、この時期の鍼灸治療は、ストレス軽減や体力の回復のために重要です。
<黄体期>
黄体期は、月経期に固まりが混じる人や、黄体ホルモンによるPMS症状が強い人だけ施術しても良いと思います。
正しい生理周期は、妊娠には欠かせません。生理不順がある方は、ぜひ鍼灸治療で正しい生理周期を身に付けて下さい。
初期胚移植では、排卵後2~3日、胚盤胞では排卵後5~6日で胚移植となりますが、移植後は様子を見ても良いと思います。
積極的な鍼灸治療は胚移植までで終わり、判定後に再び流産予防の目的で施術を行います。